「混乱したグループの渦中から、この世界で創造することの意味を問いかけたメッセージソング」
今回はルーツレゲエの曲を取り上げます。
レゲエは人によってイメージする音がかなり違いますが、この曲ではシリアスな側面を取り上げます。
音楽的にとても濃厚で、背筋が伸びるような凛とした存在感を放つ曲です。
あまり取り上げられる機会がない曲ですが、私は個人的に偏愛しています。
試しにチェックしていただければうれしいです。
本日のおすすめ!(Today’s Selection)
■アーティスト名:Black Uhuru
■アーティスト名カナ:ブラック・ウフル
■曲名:I Create
■アルバム名:Positive
■アルバム名邦題:ポジティブ
■動画リンク:Black Uhuru「I Create」
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ブラック・ウフル「I Create」(アルバム:ポジティブ)ディスクレビュー
こんにちは。おとましぐらです。(プロフィールページへ)
今回は1987年にリリースされたレゲエの曲を取り上げます。
その頃のレゲエは、ドラムマシーンの音がきついと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、ご安心ください。
リズム隊は、スライ&ロビー(Sly and Robbie)という鉄壁の布陣です。
一般的にこのグループの全盛期は「シンセミラ(Sinsemilla)」「Red(レッド)」「チル・アウト(Chill Out)」「アンセム(Anthem)」あたりとされています。
このアルバムは1983年全盛期を飾る最後のアルバム「アンセム」がリリースされてから、2枚後のアルバムです。
この時期は、グループの看板マイケル・ローズ(Michael Rose)が脱退したこともあって、あまり評価されていません。
一般的に全盛期を過ぎたと評価されている時期です。
しかしこのアルバムはそれほど悪くありません。
個人的には全盛期よりも、この頃の音づくりの方がいいと思っているぐらいです。
大幅なメンバー交代、流行りの音にすり寄り、音楽的評価の低さ
この時期はグループにとって、混乱期の真っ只中でした。
まず1984年にマイケル・ローズがグループを去り、代わりにジュニア・リード(Junior Reid)が加入しました。
また病気を理由にピューマ・ジョーンズ(Puma Jones)が脱退して、新しいボーカルのジャネット’オラファンケ’リード(Janet ‘Olafunke’ Reid)が加入しています。
前作「ブルータル(Brutal)」では、当時の売れっ子だったアーサー・ベイカー(Arthur Baker)が、プロデュースを担当しています。
前作はヒットしましたし、実際内容も決して悪くありません。
ただ生粋のレゲエファンからは、とても厳しい目を向けられました。
流行りの音楽にすり寄ったことに対する批判が多く、今に至るまで評価が高くありません。
輝かしい彼らの全盛期を終わらせたアルバムという評価に落ち着いている感があります。
頻繁なメンバー交代、昔からのファンからの非難、売れたが音楽的評価の低さ。グループは混乱していました。
実際「ブルータル」の後にアルバムを制作を始めてから、一度アルバム制作が頓挫したりもしています。
私はそういう中で、彼らが自分たちのルーツ見つめ直していったように思います。
前作の派手な音づくりは少し抑えめになり、原点回帰したような曲が増えました。
今回ご紹介する曲もそういう1曲です。
ルーツ返りとメッセージ性を深めた歌詞
混乱期にありながら、このアルバムで彼らはどうにか踏みとどまった感があります。
荒れた状況の下で、全盛期に近いレベルにまで持ち直しました。
このアルバムでは、前作で加入したジュニア・リードと、このアルバムから加入したジャネット’オラファンケ’リード(Janet ‘Olafunke’ Reid)が活躍しています。
まるで会社でいえば、新入社員と入社2年目の社員が、会社の屋台骨を支えたようなものです。
その後2人はアメリカのビザを取得できず、やむを得ず脱退することになりました。
しかしこのアルバムでは、確かな爪跡を残しています。たとえばそれはこの曲のメッセージ性です。
この曲では虐げられてきた者たちの側に立って歌われています。
歌詞を引用して翻訳したいと思います。
私が生き残ることは難しい
おそらく自殺することになる(中略)
自由のために我々は対価を支払うことになるだろう
我々は無駄に生きているフリをしてはいけない
世界的なスターではなく、弱き者たちの側に戻った彼らの姿勢がうかがえる歌詞です。
この曲のどこがすばらしいか
さて曲を聞いていきましょう。
まずうれしいのはリズムがスライ&ロビーの生音っぽいリズムに戻ったことです。
1970年代を思わせる少し硬めの音が、この曲の土台を支えています。
ボーカルはオラファンケが中心のコーラスに、ジュニア・リードが絡んでいくというスタイルで進みます。
この曲に関していえば、オラファンケのボーカルが冴えています。
彼女の芯のある声が、この曲のテーマに説得力を持たせています。
一時は私も勘違いしていましたが、このアルバムではピューマ・ジョーンズは脱退しています。
引用した動画ではピューマ・ジョーンズが出ていますが、女性ボーカルは彼女ではありません。
動画では人々が虐げられている場面が、次々に映し出されています。
中には兵士が子供に銃を向けている写真まであります。
このアルバムは1987年リリースです。
その頃は東西冷戦の末期で、社会主義国では弱き立場に置かれた人々の苦境が続いていました。
またこの年の中国では天安門事件が起こっていました。
彼らはそういう時代に音楽をやることの意味を問いかけていたのかもしれません。