「幻視的なイメージの歌詞と真っすぐ突き進むハーモニカがすばらしい!」
今回はボブ・ディラン「見張塔からずっと」(Album『ジョン・ウェズリー・ハーディング』)をご紹介します。
╂ 本日のおすすめ!(Today’s Selection) ╂
■アーティスト名:Bob Dylan
■アーティスト名カナ:ボブ・ディラン
■曲名:All Along the Watchtower
■曲名邦題:見張塔からずっと
■アルバム名:John Wesley Harding
■アルバム名邦題:ジョン・ウェズリー・ハーディング
■動画リンク:Bob Dylan「All Along the Watchtower」
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ボブ・ディラン「見張塔からずっと」(アルバム:ジョン・ウェズリー・ハーディング)ディスクレビュー
こんにちは。おとましぐらです。(プロフィールページへ)
ボブ・ディランはノーベル文学賞を受賞したシンガーソングライターです。
私は普段はあまりニュースを見ないにもかかわらず、受賞のニュースが入った日はテレビ番組をハシゴして見ました。
しかしどこのチャンネルを見ても取り上げられる曲が「風に吹かれて(Blowin’ in the Wind)」ばかりであったことが、少し残念だと思いました。
せっかく多くの人にボブ・ディランを再確認してもらういい機会なのだから、もう少しかっこいい曲が取り上げられてほしいと思いました。
「風に吹かれて」は歌詞にしても曲にしても、名曲の多いこの人の中では、私は中くらいの曲だと思っています。
おそらくプロテストソングの象徴として取り上げられていたのでしょう。
ニュースでもプロテストシンガーということが、さかんに強調されていました。
私はプロテスト色を強調しすぎると、かえって彼のすごさを矮小化することになると思っています。
ではどの曲だったらいいのかというと曲の格からいえば「ライク・ア・ローリング・ストーンLike a Rolling Stone)」あたりがいいかもしれません。
ただあの曲は時代背景や登場人物について、かなりじっくり解説しないと良さが分かりにくい曲だと思います。
だからもう少し手軽にすごさが分かるこの曲あたりをご紹介するのがいいと思いました。
歌詞の解説
では歌詞について触れていきましょう。全部の歌詞を引用する著作権の問題がありますので、ポイントだけ引用します。
私が自分で翻訳してみました。
この曲はストーリー仕立てです。まずは曲は以下のところから始まります。
「どこかに抜け道があるはずだ」
道化師が泥棒に言った原文はBob Dylan – All Along The Watchtower Lyrics | AZLyrics.comから引用
道化師が泥棒に語っているシーンです。道化師によると、農民は道化師が持っている土地を耕し、実業家はそこで生産されたワインを飲んでいるそうです。
農民と実業家は誰一人この土地やワインの価値を分かっていないというような内容が語られています。次の部分を引用しましょう。
「そんなに興奮する必要はない」
泥棒がやさしく諭した「我々の周りを見ろ。人生は冗談に過ぎないと感じている奴が沢山いるだろう
でもお前や俺は、もうそういった事を通過してきたんじゃないか
そしてこれは俺たちの運命ではないだからもう嘘を言うのはやめようじゃないか
もう随分遅い時間だからな」原文はBob Dylan – All Along The Watchtower Lyrics | AZLyrics.comから引用
ここは悪ふざけが入っています。
人生はただの冗談みたいなものではない、もう嘘はたくさんだということですが、真実を語り合う2人が道化師と泥棒という、嘘を言うことが仕事の人たちです。
よく日本のロックンロールのバンドで、ペテン師という言葉が用いられることがあります。
私はそういう言葉の使い方はおそらくボブ・ディランあたりから始まったと考えています。
クロマニヨンズの「ペテン師ロック」というドストレートの曲などもありますが、その曲でもペテン師という言葉があまり悪い意味で使われていません。
よく英語のスラングで言われている「So Bad」という言葉や、日本語でもいい意味でも使われる「やばい」という言葉もそうですが、あえて反対の意味で使う言い方があります。
だからここでいう道化師と泥棒は「透徹した視線で真実を見抜いて語るやばい奴ら」ぐらいで考えておくといいかもしれません。
ただ語り合おうにも、もう夜も遅くもう朝まで時間がありません。
その後にこの曲のタイトルとなる言葉が入ります。
見張塔から王子達がずっと外を見張っていた
原文はBob Dylan – All Along The Watchtower Lyrics | AZLyrics.comから引用
描写が建物の中に移ります。そこでは女たちや召使いが、あわただしく走り回っているようです。
泥棒に入られたことに気づいたのかもしれません。
ここまでの部分については、以下のような分析がされています。
歌詞は『聖書』「イザヤ書」第21章の、見張り塔から馬に乗った二人の男が来るのが見えたとき、堕落したバビロンが崩壊したことを知るという逸話を踏まえており、ディランは二人の男に道化師と泥棒、見張り人に王子達を配して、彼の社会観を象徴する寓話的な内容に仕立てている。
見張塔からずっと Wikipedia
バビロンとは繁栄しすぎて堕落した大国のことで、この曲ではおそらくアメリカの象徴ではないかと思われます。
アメリカが大騒ぎになっているというように読み取れます。
しかし何か変わりつつある、その変化が起こる兆しが次に描かれています。
遠い場所でヤマネコがうなり声をあげた
馬に乗った2人が近づいてくる
それから風が吼えはじめた原文はBob Dylan – All Along The Watchtower Lyrics | AZLyrics.comから引用
「風」というのはボブ・ディランでは特別な意味を持つ言葉で、「風に吹かれて」でも「答えは風が知っている」というフレーズが用いられています。
「風」とは何か、根拠を書くとそれだけで長くなりすぎてしまいますから、私が出した結論だけ申し上げます。
私は「風」とは「民衆」のことではないかと思っています。
時代や人が動きつつある。それを表現していると思います。
このアルバムが発売された頃はアメリカは、ベトナム戦争をめぐって世論が分断する大騒ぎの最中でした。
反戦を旗印にして大統領指名選挙に出馬したロバート・ケネディが暗殺されたのは、その翌年です。
反戦世論の高まりと、南ベトナムの解放民族戦線がテト攻勢でアメリカが不利な戦局となったことが判明した結果、強い国アメリカは戦後初めて苦い敗北を受け入れ、撤退します。
この曲はその前年に書かれた曲です。
アメリカ社会が混乱に陥っている時に、ボブ・ディランはバイク事故で療養の為隠遁していました。
その真っただ中で、ある意味アメリカの変化と没落を予言する曲を書いていたのです。
歌詞というより、ほとんど幻視者が見たイメージの奔流です。
この曲のどこがすばらしいのか
さて歌詞だけで随分長くなってしまいましたが、曲についても触れていきましょう。
この曲はイントロから直線的なハーモニカの演奏がとても印象的です。
歌はいつもながらのぶっきらぼうなディラン節です。
他には着実なリズムを刻み、ハーモニカと対話しているかのようなドラムもすばらしいです。
この曲はジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)をはじめとして、多くのカバーがありますが、まずはこの曲から聞き始めていただくのがいいように思います。
曲自体も大変すばらしいですが、最初に押さえておきたいのは歌詞です。歌詞を知ると、曲の味わいが増すように思います。
悪ふざけに近いジョークや、クールな状況描写、普通ではない言葉のセンス、そして全体が漂う寓話のような想像力あふれるイメージ。
アルバム外ですが、他には「Farewell, Angelina」という曲でも「キングコングと小さな妖精が2人屋根の上、彼らは踊る」という歌詞があります。
やはりイメージが普通じゃないですよね。
普通の歌詞とは別物と考えた方がいいかもしれません。
もしご興味ある方は図書館とかにボブ・ディラン詩集みたいな本が置かれていることがあるので、パラパラとめくってみるといいと思います。
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