「まだ回復していなのに無理をして歌った時、傑作が生まれた!」
今回はブライアン・ウィルソン「スティル・アイ・ドリーム・イット」(Album『駄目な僕 I JUST WASN’T MADE FOR THESE TIMES』)をご紹介します。
╂ 本日のおすすめ!(Today’s Selection) ╂
■アーティスト名:Brian Wilson
■アーティスト名カナ:ブライアン・ウィルソン
■曲名:Still I Dream of It
■曲名邦題:スティル・アイ・ドリーム・イット
■アルバム名:I Just Wasn’t Made for These Times
■アルバム名邦題:駄目な僕 I JUST WASN’T MADE FOR THESE TIMES
■動画リンク:Brian Wilson「Still I Dream of It」
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ブライアン・ウィルソン「スティル・アイ・ドリーム・イット」(アルバム:駄目な僕 I JUST WASN’T MADE FOR THESE TIMES)ディスクレビュー
こんにちは。おとましぐらです。(プロフィールページへ)
映画のサントラとして製作されたセルフ・カバーアルバムの曲です。
熱心なファンはもちろん買うのでしょうが、セルフカバーというところでげんなりする気持ちも分からないでもありません。
しかし出来は悪くありません。というよりいくつかの曲の輝きが欠点を補ってあまりある出来にしています。
その筆頭がこの曲です。
この曲は実は1976年に自宅で録音されたデモ音源の曲です。セルフカバーではありません。
当時はブライアンは精神のバランスを崩して酒やドラッグに溺れ、バスローブのまま1日を過ごし、人の来る気配に怯えて過ごしていたボロボロの時期です。
「15 Big Ones」でバンド復帰はしたものの、まだ本調子ではないことが隠しようがない時期でした。
まるで怪我が治っていないのに先発出場したサッカー選手みたいな感じです。
うれしいよりも先にきちんと治療した方がいいのではないかと思ったファンもいたと思います。
実際この曲でも全盛期の声とは程遠いものです。ガラガラ声で、すっかり声が荒れてしまっています。
昔の声を知っているファンががっかりしてもおかしくありません。だから当時発表されなかったのも分かります。
しかしそれにも関わらずこの曲は素晴らしい出来です。
ブライアン・ウィルソンという日本でいえば田中一郎みたいなありふれた名前を持つこの男は、誰よりも素晴らしい声を持っていました。
単純に音楽的才能という観点からすると、この人はおそらくスティービー・ワンダー(Stevie Wonder)やマイルス・デイビス(Miles Davis)、ポール・マッカートニー(Paul McCartney)などと並び、最も才能に恵まれた1人でしょう。
シンプルに素晴らしい曲を書き、すばらしい声で再現する、それがブライアンのすごさだと思っていた時期が私にもありました。(ここはバキ風に再現をお願いします)
しかしこの曲の良さはそういうところではありません。先に苦味が来ます。
決して表面的にきれいな音楽ではありません。
ただボロボロだからこそ、その人のコアが浮かび上がることがある。不思議ですが、音楽にはそういうことがあります。
ビル・エバンス(Bill Evans)というジャズピアニストは死の直前、指が倍ぐらいに腫れ上がって、他のメンバーから頼むから病院に行ってくれと懇願されるような状態で、数々の名演を残しました。全盛期の繊細なタッチには程遠いにもかかわらずです。
この曲にも何かそういう音楽の才能を授けられすぎてしまった人の業みたいなものが感じられるのですよね。
ちなみにこの曲は「Still I Dream of It」という曲名です。
ボロボロに病んでいる状態でも、それでもまだ夢見ているなんて、少し出来すぎなぐらいの物語です。
ただ幸いにもビル・エバンスと違って、ブライアンは復活しました。近年は絶好調で、ここ数作はこれから新しく出ようとしている若い芽を摘みかねないのではないかと心配する程です。
まるで45歳で世界ヘビー級王者になったジョージ・フォアマン状態です。
この曲はある意味ドキュメンタリーともいえるかもしれません。
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