「民族の誇りと情熱を持った人たちに支えられて生まれた大名曲の傑作カバー」
今回はエル・チカーノ「ホワッツ・ゴーイン・オン」(Album『エル・チカーノ』)をご紹介します。
╂ 本日のおすすめ!(Today’s Selection) ╂
■アーティスト名:El Chicano
■アーティスト名カナ:エル・チカーノ
■曲名:What’s Going On
■曲名邦題:ホワッツ・ゴーイン・オン
■アルバム名:アーティスト名と同じ
■アルバム名邦題:アーティスト名カナと同じ
■動画リンク:El Chicano「What’s Going On」
╂ 名曲レビューでは四つ星半以上のとびっきりの名曲だけをおすすめしています!╂
エル・チカーノ「ホワッツ・ゴーイン・オン」(アルバム:エル・チカーノ)ディスクレビュー
こんにちは。おとましぐらです。(プロフィールページへ)
今回はラテン・ロックを取り上げます。
ラテン・ロックというとサンタナ(Santana)やマロ(Malo)などが有名ですが、このバンドも同じカテゴリーで分類されることが多いです。
まあ私なりの分類でいうとロックではなく、フリーソウルと言った方がぴったりときますけどね。
このジャケットを見て、NASのこのジャケットを思い浮かべた人もいるかもしれません。
はい、そうですね。そんな人は私ぐらいです。
それにこのバンドのジャケットの人物はファラオではなく、メキシコ系アメリカ人です。
今回取り上げたエル・チカーノというバンド名は、そのものずばり「メキシコ系アメリカ人」の意味で、どちらかというと、民族的意識の高い呼び方のようです。
このバンドはアメリカのバンドです。イーストロサンゼルスと呼ばれる地域を活動の拠点にしていたようです。
どういう地域か、ウィキペディアから引用しておきましょう。
イーストロサンゼルスはインナーシティに形成された人口密度の高い住宅地である。
住民の所得水準は低く、総人口の1/4以上が貧困状態にあり、特に18歳未満においては、その35%が貧困線以下の生活を送っている。
また、同CDPの人口の99%以上はヒスパニック系である。
ヒスパニックというのはとてもあいまいな分類なのですが、実質的に2/3程度はメキシコ系アメリカ人のことのようです。
つまり大都市周辺にあるメキシコ系移民が多く住む貧民街みたいなところだったということになります。
このバンドのメンバーはバンド名の通りメキシコ系アメリカ人ですが、どストレートにメキシコ系アメリカ人という名前のバンド名を付けたのには、当時の時代背景があります。
当時のイーストLAではチカーノ・ムーブメントという民族運動がありました。
当時のアメリカは公民権運動で黒人が地位向上の声を上げていました。
それがチカーノ・コミュニティに飛び火して、過酷な労働環境、教育・福祉の格差、ベトナム戦争でのメキシコ系アメリカ人の異常に高い戦死率など社会的矛盾に対して、声を上げていこうという意識が高まっていました。
エディ・デイビス(Eddie Davis)の情熱
当時イーストロサンゼルスを根城として、音楽を通じてメキシコ系アメリカ人の地位向上を目指している男がいました。
エディ・デイビス(Eddie Davis)です。
自身も歌手としてのキャリアがある人です。
彼はプロデューサーやレーベル・オーナーとして、特にイーストロサンゼルスのヒスパニックの音楽を、積極的に紹介し続けました。
彼はチカーノ・モータウン構想というメキシコ系アメリカ人の中からスターを育てようとする計画を実施していましたが、なかなかうまくいきませんでした。
モータウンとはアフリカ系アメリカ人の音楽レーベルで、当時は高い人気を誇っていました。
それをメキシコ系アメリカ人でも再現しようとしていたのですね。
エディ・デイビスの血は半分がユダヤ系だそうですが、ヒスパニックの血が入っているかは確認できませんでした。
ただ出自に関係なく、この人物の存在なくしてエル・チカーノの存在はありません。
そんな彼の下にある日、The V.I.P.’sというバンドのテープが届けられました。
そこにはイーストロサンゼルスの空気を濃縮したような演奏が詰め込まれていました。
その演奏にえらく感動したエディ・デイビスは、バンド名をメキシコ系アメリカ人を意味するエル・チカーノにしようと決めたという逸話があります。
その後その曲はエル・チカーノ名義でリリースされています。リンクを貼っておきましょう。
エディ・デイビスの思惑どおり、その曲をアルバムタイトルにしたファーストアルバム「ビバ・ティラード(Viva Tirado)」はヒットし、全米アルバムチャートの51位を記録しています。
アメリカはマーケットが大きいので、51位でもなかなかのヒットだと思います。
特にローカルな地域から発信されたマイノリティの音楽としては、上出来の部類だといえるでしょう。
そのヒットの後は全米単位のセールスでは伸び悩みます。
しかしエディ・デイビスとバンドはチカーノ・コミュニティに根差した草の根の活動を続け、地元ではサンタナに負けない人気だったそうです。
その努力が実ってもうひと盛り上がりをつくったのが、1973年にリリースされたこのアルバムです。
とは言っても当時はそれほどセールス的には報われませんでした。
この曲のどこがすばらしいのか
さて曲を聞いていきましょう。
まずイントロのギターのカッティングから始まります。
そのギターと互いにカウンターを打つようにして絡むベースラインも大変かっこいいです。
この曲はインストなので、ボーカルは入っていません。その代わりにハモンドオルガンが曲の旋律を弾いています。
このハモンドオルガンは、中心人物であるボビー・エスピノーサ(Bobby Espinosa)の演奏です。
ドラムもドタバタいなたいすばらしい演奏を繰り広げています。
どの演奏もスタジオ録音なのにライブ感があって、いかにもライブで鍛えられてきた感じがします。
2:54ぐらいから始まるエレクトリックギターは、ラテン・ロックらしいサスティーンを効かせた官能的な演奏を聞かせてくれます。
私はこのギターの演奏が、この曲の最大の聞きどころだと思います。
ギターソロが終わると今度は俺の出番だといわんばかに、ハモンドオルガンのアドリブが始まります。
5:00ぐらいにラテンっぽいブレイクを入れていますが、ここはライブで盛り上がるところでしょう。
全体としてベースラインがゴリゴリとした演奏をキープしていて、時々音が上ずるところなどは鳥肌ものです。
お時間のある方は、この曲を聞いてから先程リンクを貼った「ビバ・ティラード」をもう一度聞いてみてください。
「ビバ・ティラード」もかっこいい曲だと思うものの、この曲の後に聞くと、少しこじんまりと聞こえてくる気がしないでしょうか。
彼らはキャリアを積むにつれて、演奏の腕を上げて、ついにはここまで野性味のあるグルーヴを獲得したのですね。
私は超名曲のマービン・ゲイのオリジナルバージョンに負けない出来だと思います。
この曲にはメンバーの才能や努力だけでなく、イーストロサンゼルスの音楽を紹介しようと駆けずり回った、エディ・デイビスの情熱も詰まっています。
すばらしい音楽が世の中に出てきたり再評価されるには、そうした第三者の情熱がとても大きな働きをしていることがあります。
ボンバ・レコード(Bomba Records)の功績
先程この曲のアルバムは、後年再評価されたと書きました。
この曲が再評価されたのは、日本のレーベルであるボンバ・レコードが世界初でCD化をした功績も大きいです。
ボンバレコードはこのアルバムを含む初期4作をCD化し、クラブシーンでの再評価に一役買いました。
私はボンバ・レコードは日本が世界に誇ることができる大切なレーベルだと思います。
お世話になっているので、支援リンクを貼りたいと思います。
http://bomba-records.music.coocan.jp/
私はこのボンバからリリースされた音楽の中から、多くのすばらしい音楽に出会うことができました。
様々な人の熱意の結果として我々の耳に届けられたこの名曲を、ぜひご堪能ください。
引き続きこのアルバムのAmazonレビューを読んでみたい方や、ご購入をお考えの方は、下のリンクからお進みください。