「スティーヴィー・ニックスがリンジー・バッキンガムに突き付けた辛辣な三行半ソング」
今回はフリートウッド・マック「ドリームス」(Album『噂』)をご紹介します。
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■アーティスト名:Fleetwood Mac
■アーティスト名カナ:フリートウッド・マック
■曲名:Dreams
■曲名邦題:ドリームス
■アルバム名:Rumours
■アルバム名邦題:噂
■動画リンク:Fleetwood Mac「Dreams」
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フリートウッド・マック「ドリームス」(アルバム:噂)ディスクレビュー
こんにちは。おとましぐらです。(プロフィールページへ)
今回は大名盤シリーズから取り上げます。
知っている人も多いと思いますが、時々聞くとやはりいい曲だなと思います。
フリートウッド・マックというよりも、これはスティーヴィー・ニックスの曲だと言いたい人もいると思います。
確かに彼女が作詞作曲した曲だし、リードボーカルもとっています。
しかし後で触れますが、この名曲が世に送り出されるにはあるメンバーとの軋轢があります。
また演奏面のすばらしさも忘れてはいけません。
いろいろな意味で、グループだからこその曲だといえると思います。
ただこの頃の彼女の小悪魔的な魅力は、当時男性だけでなく、女性をも魅了しました。
この頃彼女は18歳か19歳ぐらいで、当時は日本のファンから妖精みたいな扱いを受けていました。
このアルバムの頃の写真を貼っておきましょう。
この顔でこんな曲を歌うのですから、ちょっと反則ぎみですよね。彼女の虜にならないはずがありません。
個人的には彼女の書く曲は、甘くかわいらしく曲ではない、比較的硬派なところが良いなと感じます。
このアルバムのジャケットもすばらしいですよね。
スティーヴィーのポーズはなんだかよく分かりませんが、極めて英国的な雰囲気を持つ良いジャケットだと思います。
ちなみに後年彼らは「ザ・ダンス(The Dance)」というライブアルバムで、このジャケットのパロディをやっています。
上は20年後、1997年の彼らです。
スティーヴィーもまだまだコケティッシュな雰囲気を残しています。
ただあのポーズはもう恥ずかしいのか、スティーヴィーは寝そべっていますね。
あのポーズは苦しい体勢だと思いますし、少し残念ですが仕方ありません。
バンド内の昼ドラ的人間関係について
このアルバムのレコーディング時、メンバーは何かと精神的に揺れる時期だったようです。
ウィキペディアからその時期の記述を引用しましょう。
まず、ミック・フリートウッドが妻のジェニーと離婚した。
バンドに参加したときは交際していたリンジー・バッキンガムとスティーヴィー・ニックスは別れ、ジョン・マクヴィーとクリスティン・マクヴィーも離婚した。
にもかかわらず、5人のメンバーは、全員がバンドに残っていた。
後のスティーヴィー・ニックスの指摘によれば、それはつまり、ただでさえよそよそしいメンバー同士が長い時間を共に過ごし、時々とても気まずい時間があったということだ。
バンドの人間関係に亀裂が入っていたようです。そもそも同じバンドの中で、恋愛関係になりまくりだったのですね。
まずこの昼ドラのような状況を整理しておきましょう。
・リンジー・バッキンガムとスティーヴィー・ニックス →破局
・ジョン・マクヴィーとクリスティン・マクヴィー →離婚
・ミック・フリートウッドと妻のジェニー →離婚
上の3組の中で、ミック・フリートウッドの奥さん以外、バンドのメンバー5人全員が、離婚か破局しているという状況です。
そして各メンバーが互いに相手のことをテーマにして曲を書いたから「噂(Rumours)」というアルバムタイトルです。
アルバム名については「Rumor」ではなく複数形の「Rumors」となっていることに注目したいと思います。
要するにある特定の噂ではなく、様々な噂が飛び交っていたということです。
このアルバムタイトルを考えたのはジョン・マクヴィー(John McVie)のようです。
この人はイギリス人ですが、英国らしい自虐的な笑いのセンスを感じます。
ただ当時各メンバーの精神状態は相当悪かったことは事実らしく、音楽制作に没頭することによって、忘れようとしたそうです。
そのギリギリ具合が、音楽的には良い方向に作用したアルバムかもしれません。
歌詞から見える2人の亀裂の原因
さて今回ご紹介した曲についても、そういう軋轢が背景にあります。
当時スティーヴィー・ニックスはリンジー・バッキンガム(Lindsey Buckingham)と恋人関係にありました。
元々このバンドに加入する前から恋人同士で、加入前には2人でこんなアルバムまで出しています。
この曲の中で、スティーヴィー・ニックスはリンジー・バッキンガムに対して、かなり痛烈に歌っています。
あなたが感じるままに演奏するのは当然のことだけど
よく聞いてみると
あなたの出す音には孤独があらわているわね雷は雨が降っている時だけに鳴るものよ
他の人はあなたが演奏している時だけ愛しているの女性たちは来ては去っていくものよ
雨で打たれてさっぱりすれば、あなたも分かるはず
おおっ、これはすごいですね。なかなか辛辣です。
しかし一方の意見だけというのは不公平なので、今度は同じアルバムに収録されているリンジー・バッキンガムの曲の歌詞もみていきましょう。
「オウン・ウェイ(Go Your Own Way)」の歌詞を翻訳してみます。
愛している
君のやっていることは正しいことではないよ
どうすれば今私が感じているこの状況を変えられるのかなできることなら君に僕の世界のすべてをあげるよ
どうしたらいいだろう
君がその気持ちを受け取ろうとしない時には君は君の道を行くことができる
君の道をいけばいいよ
そうすれば、君には孤独な日がやってくるんだからね
曲のリンクも貼っておきましょう。
Fleetwood Mac「Go Your Own Way」
しかしリンジー、やってしまいましたね。
きっと他の女の子に鼻の下を伸ばして、妖精のご機嫌を損ねてしまったのでしょう。
想像するに、リンジーが他の女の子にちやほやされていて、それを見たスティーヴィーが態度を硬直化して、心を閉ざしたみたいな感じですかね。
特に曲の中で逆切れしているのは、ちょっとまずかったかなと思います。
しかも急にサビで逆切れ展開とは、完全に妖精の神経を逆なでしてしまいましたね。
しかし公に発表する曲なのに、まるで私小説みたいです。
ちなみにどちらもシングルカットされて、セールスではスティーヴィーの曲が全米1位、リンジーの曲が10位です。
痴話げんかの曲なのに、こんなに売れてしまっていいのでしょうか。
この曲のどこがすばらしいのか
さて曲を聞いていきましょう。
まずこの曲のポイントはイントロです。
ジョン・マクヴィーのベースとミック・フリートウッドのドラムが、とても懐の深い演奏を聞かせてくれます。
そこに重なるクリスティン・マクヴィーのキーボードも、アンニュイでニューアンスに富んだ演奏です。
そういえばTOTOがファーストアルバムで「ジョージ・ポージー(Georgy Porgy)」のイントロで震撼させてくれたのも、同じ1977年だったことを思い出しました。
「ドリームス」のイントロは、そのTOTOの演奏に負けていません。
このAOR的な洗練された演奏力が、この曲の成功の後押ししたと思います。
そしてやはりスティーヴィーのボーカルです。
顔に似合わずハスキーな声なんですよね。そのギャップもいいですし、実際にこの曲にとても合っています。
ボーカルに重なる女性コーラスはクリスティン・マクヴィーかもしれませんが、とても良い雰囲気を出してくれます。
笑えるのがこの曲で辛辣に歌われているリンジーのギターが、めちゃくちゃ控えめであることです。
ほとんど目立ちません。まるで息をひそめているかのようです。
そしてやはり楽曲の魅力があります。この時期のスティーヴィーはどのアルバムでもハイライトとなる曲を書いている、ほぼ主役の立場でした。
外見だけでなく、同等の音楽的才能も兼ね備えていた人だったのですね。
このアルバムは結果大ヒットして、翌年1978年のグラミー賞で最優秀アルバムを獲得しています。
それだけではなくアルバムチャートで31週1位となり、当時は怪物アルバムと呼ばれるようなビックセールスを獲得しました。
バンドの実態としてはメンバー間に亀裂が入りまくりでしたが、こんなに売れたので解散できなくなりました。
そして2年後に出たアルバムのタイトルが「牙 (Tusk)」というタイトルです。またしてもトゲを感じるタイトルですかね。
まあしかし時間の経過が彼らを癒したらしく、先ほどジャケットで挙げた1997年の頃は和解しています。
この曲は当時の大人の事情を想像しながら聞くと、聞こえ方が違ってくるかもしれません。
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