「サンタナの「哀愁のヨーロッパ」が好きな人におすすめの曲」
今回はガトー・バルビエリ「ラストタンゴ・イン・パリ(パート1)」(Album『ラストタンゴ・イン・パリ』)をご紹介します。
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■アーティスト名:Gato Barbieri
■アーティスト名カナ:ガトー・バルビエリ
■曲名:Last Tango in Paris, Pt. 1
■曲名邦題:ラストタンゴ・イン・パリ(パート1)
■アルバム名:Last Tango in Paris
■アルバム名邦題:ラストタンゴ・イン・パリ
■動画リンク:Gato Barbieri「Last Tango in Paris, Pt. 1」
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ガトー・バルビエリ「ラストタンゴ・イン・パリ(パート1)」(アルバム:ラストタンゴ・イン・パリ)ディスクレビュー
こんにちは。おとましぐらです。(プロフィールページへ)
今回はマーロン・ブランド(Marlon Brando)とマリア・シュナイダー(Maria Schneider)の過激な性描写で話題となった映画のサントラ音楽を取り上げます。
私はこの映画を見たかどうか忘れてしまっています。
確か名画座で見たという記憶だけがありますが、実際の映画自体の記憶がないので、見ていないのと同じです。
まあ音楽ブログですから、音楽について述べていきたいと思います。
この映画は1972年に公開されたベルナルド・ベルトルッチ(Bernardo Bertolucci)監督の作品です。
この監督は「ラストエンペラー(The Last Emperor)」や「シェルタリング・スカイ(The Sheltering Sky)」の方が有名かもしれません。
まずこのベルナルド・ベルトルッチという人は音楽好きにも、素通りできない名前です。
彼の監督した映画は、他にも音楽が重要な位置を占めているものが多いです。
「ラストエンペラー」「シェルタリング・スカイ」「リトル・ブッダ(Little Buddha)」と3作連続で坂本龍一を音楽に起用もしています。
私が特におすすめしたいのはエンニオ・モリコーネ(Ennio Morricone)を音楽に採用した「1900年(Novecento)」です。
まぎれもなくモリコーネのベストワークの1つでしょう。
他にも音楽を素材にした映画などもあり、音楽に人一倍こだわりがある監督だと思います。
経歴について
この映画ではガトー・バルビエリの音楽が採用されています。
ただガトー・バルビエリのディスコグラフィを見て思いましたが、この映画音楽を手掛ける前はそれほど有名な存在ではなかったと思います。
当時はフライング・ダッチマン(Flying Dutchman)というギル・スコット=ヘロン(Gil Scott-Heron)やロニー・リストン・スミス(Lonnie Liston Smith)などで有名なレーベルで意欲作を出していた頃でしたが、おそらく一般的知名度はそれほどではなかったと思います。
もともとこの人はフリー・ジャズ界隈から出てきた人です。
フリージャズ時代の演奏やダラー・ブランド(Dollar Brand)とやったアルバムなども聞いてみましたが、私はそれほどいいと思ったことがありません。
ただ前年の「フェニックス(Fenix)」「アンダー・ファイア(Under Fire)」あたりから、ようやく面白い作品が出始めてきたと思います。
ベルトルッチと出会った経緯は調べても判明しませんでした。
タンゴと付くタイトルの映画だからタンゴの国のアルゼンチンの音楽家であるガトーを採用したのか、もしくはイタリア出身の奥さんの人脈などもあるかもしれません。
この曲のどこがすばらしいのか
さてこの曲でガトー・バルビエリはテナーサックスを担当しています。作曲もこの人です。
しかしもう一人の主役は編曲を担当したオリヴァー・ネルソン(Oliver Nelson)です。
この人はエリック・ドルフィー(Eric Dolphy)との共演が有名な人です。
1961年に「ブルースの真実(The Blues and the Abstract Truth)」という名盤の誉れ高いジャズのアルバムを発表しています。
この人がストリングスアレンジを中心に行ったようですが、この人選が大当たりです。
出だしで印象的な盛り上がりをつくった後にバンドネオンというアコーディオンの一種の演奏が始まります。
バンドネオンとはタンゴでよく使われる楽器です。せつないが少し官能的なこのメロディはとてもすばらしいです。
バンドネオンの後に端正なピアノ演奏が始まりますが、そのピアノ演奏を追いかけるように鳴っている優雅なストリングスのまた見事なこと!
リズムの刻み方も少しタンゴっぽいですし、タンゴで肝心な官能的なところも表現しています。
私はこの曲の功績の半分は、前半で見事なアレンジをほどこしたオリバー・ネルソンにあると思います。
1:43のところでようやく主役のガトー・バルビエリが登場します。
最初こそ少しけだるい感じで抑えめにしていますが、次第に抑えきれず昼メロのようなクサさが出てきます。
ただこれでもこの人にとってひかえめな演奏です。
実は私はガトーが思いっきり楽器を鳴らした時の濃厚さが受け入れられない時があります。
体調が悪い時などは、アルバムを途中で聞くのをやめてしまうこともあるぐらいです。
クサさが病みつきになる
本当のガトーのクサさはこんなものではありません。
ただ突き抜けてしまって、全力のクサさで聞き手をねじ伏せるような演奏もたくさんあります。
アクが強すぎて身体が受け付けるかどうかギリギリだけど、やみつきになるトンコツラーメンみたいなものです。
この人の演奏は過剰すぎるしクサいけれど、それでもなぜか聞きたくなります。
つまりマイナス部分とプラス部分の振れ幅の大きな演奏をします。
ではマイナス部分である過剰でクサいところを抑えたらいいのではないかと思うかもしれません。
それがこの演奏です。それでもまだクサさが残りますけどね。
映画音楽ということが演奏を抑制することにつながったのかもしれません。
いつも通りのガトーでは演奏者の刻印が強くなりすぎますから、理性が働いたのではないでしょうか。
この時ガトーはあまり儲からないであろうフリージャズから、違う方向性を模索していた時期でした。
フライング・ダッチマンの後半ぐらいから自分の方向性を見つけかけていましたが、この時すでに40歳間近ぐらいだったんですよね。
そこに舞い込んできた有名監督からの音楽の話。ガトーにとってのワンチャンです。波が来たと感じたことでしょう。
このチャンスを活かそうと、とっておきの曲を書き上げることができました。
この人の場合、本能に任せて吹きまくってドン引きされることが多いと思います。
しかし前年ぐらいから少しひかえめに吹くことができるようになってきていました。
前半はオリバー・ネルソンの書いたスコアによるストリングス演奏盛り上げてくれればいいけれど、曲の後半では自分の演奏で締めくくりたい。
ただし映画のための音楽だ。ただ自分を出しすぎないようにしないといけない。このワンチャンを活かす為、少し抑えた方がいい。
そんな感じだったのではないかと推測します。結果は吉と出ました。しかも大吉です。
ガトーはこのアルバムの音楽で1972年グラミー賞を受賞して、一躍人気ミュージシャンの仲間入りを果たしました。
見事にワンチャンを活かして人生が変わりました。
ここで人気が出た彼は自信を深めて、その後自分のやりたい音楽へと邁進していくこととなります。
その後はまた濃くてクサい持ち味を全開にしてしまいました。
そのせいか70年代以降は失速した感じがありますが、その時期でも私にとって超が付く名曲がいくつかありますので、いずれご紹介する機会があると思います。
まあやりたい演奏をやればいいと思います。
だってこの曲は多く人にカバーされていますから、印税だけで食べていけるでしょうから。
この曲はせっかくの至高のメロディが、テナーサックスのクサさでムード音楽になってしまいそうになる、そのギリギリ具合を楽しむ曲だと思います。
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