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The Jam「David Watts」「Down in the Tube Station at Midnight」(アルバム:All Mod Cons)

「緊迫感のある歌詞から読み取れるポール・ウェラーの才能開花のきっかけ」

今回はザ・ジャム「デイヴィッド・ワッツ」「チューブ・ステイション」(Album『オール・モッド・コンズ』)をご紹介します。

本日のおすすめ!(Today’s Selection)
■アーティスト名:The Jam
■アーティスト名カナ:ザ・ジャム
■曲名:David Watts、Down in the Tube Station at Midnight
■曲名邦題:デイヴィッド・ワッツ、チューブ・ステイション
■アルバム名:All Mod Cons
■アルバム名邦題:オール・モッド・コンズ
■動画リンク:「David Watts」「Down in the Tube Station at Midnight」

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ザ・ジャム「デイヴィッド・ワッツ」「チューブ・ステイション」(アルバム:オール・モッド・コンズ)ディスクレビュー

こんにちは。おとましぐらです。(プロフィールページへ

このバンドはポール・ウェラー(Paul Weller)を輩出したことで有名です。

パンクの流れから出てきたバンドですが、そもそも初期のジャムは音がパンクと似ているだけで、彼らのルーツは本来モッズです。

モッズとはザ・フー(The Who)とかスモール・フェイセス(Small Faces)などの流れをくむ、スリムなスーツを着て、おしゃれに気を遣う人たちのことです。

映画「さらば青春の光」を見ると分かりますが、おしゃれではあっても少し不良が入っていて、音楽的には黒人音楽をヒップなものとして好んで聞いています。

当時のイギリスでは、様々な不良文化のカテゴリーがありました。

モッズは政治思想を含んでいるものではなかったようです。

しかしモッズカルチャーから派生した中に、右翼的な考えを持つスキンズ(スキンヘッズ)が生まれました。

スキンヘッズは名前の通り頭を丸刈りにしていて、経済的な問題からモッズほどおしゃれにお金をつぎ込むことができず、シンプルなファッションを好んでいました。

彼らは地元や国を愛し、彼らの仕事を奪っていく移民排斥の考え方を持った人たちです。

次第に極右的な性格を帯びてきました。

ちなみに音楽的に彼らは、レゲエやロックステディを好んでいたようです。

一方でそれに加えてパンクスが登場します。彼らはパンクロックと左翼的な思想を持っていました。

ジャムはパンクロックシーンから出てきていましたが、デビュー時はこの頃ほど政治的な思想を打ち出していませんでした。

パンクスはジャムが登場した時に、ファッションに注目しました。

そして典型的なモッズ・ファッションであることを知ると、こいつらは仲間ではないなと思いました。

そんなところにシングルとして発売されたのが「チューブ・ステイション」です。

チューブ・ステイションの緊迫感のある歌詞

「チューブ・ステイション」の歌詞はなかなか引き込まれます。

ある男性が暴漢に襲われた場面が、一人称で語られています。

抜粋して翻訳しておきましょう。迫真の場面です。

最初に殴られたことを感じた それから蹴られた
俺は今 奴等の息づかいも感じることができる
パブと刑務所の匂いがする
そして多くの右翼が集まっているような匂いも

俺の命は風前の灯で、もうそろそろ俺はお別れとなりそうだ

Down In The Tube Station At Midnight Lyrics – SongMeanings

この曲の主人公は右翼の暴漢に襲われて、まさに非業の死を迎えようとしています。

注目すべきは右翼という言葉です。

つまり主人公を襲ったのはパンクスではなく、スキンヘッズが示唆されているということです。

それまでジャムを敵視していたパンクスはこの曲を聞いて、こいつらは敵ではないのだなと思ったはずです。

この曲の最後は、以下のようなシーンで終わっています。

俺は自分の人生を振り返り それから妻のことを思い出した
なぜなら奴らは俺の鍵を奪っていったから

彼女は俺だと思ってしまうだろう
俺は真夜中に地下鉄の駅で倒れているというのに
ワインは気が抜けてしまい カレーは冷めてしまう

そこには行かないでくれ
俺は真夜中の地下鉄で倒れているんだ

Down In The Tube Station At Midnight Lyrics – SongMeanings

曲は地下鉄構内の効果音も入れて、緊迫感のある歌詞とともに、パンクスたちの心をもつかんでしまいました。

この曲はヒットして、このあたりからポール・ウェラーの人気が高まってきました。

ではこの頃なぜポール・ウェラーは、こういう歌詞を書いたのでしょうか。


サッチャリズムという時代背景

それには当時イギリスでマーガレット・サッチャー首相が誕生したという時代背景があります。

サッチャー首相は保守党出身で、思想的には右派でした。首相になると新自由主義であるサッチャリズムを推進しました。

日本でいうと自己責任論とか弱者切り捨てみたいなところと、少し似ているかもしれません。

ただイギリスの場合、日本よりももっと急激な改革が実施され、イギリスの格差に関する指標は、1979年を境に急上昇しています。

ちなみにこの曲が発表されたのは、1978年10月13日です。

以下のグラフを見てみるとすごい上昇っぷりです。

tubestation
  引用元:ウィキペディア サッチャリズム

1982年には先日ご紹介した「シップビルディング(Shipbuilding)」でも取り上げた、フォークランド紛争が勃発しています。

Robert Wyatt 「Shipbuilding」 (アルバム:Different Every Time)

この頃のイギリスのミュージシャンは、反サッチャー一色に染まっています。

エルビス・コステロは当時、サッチャーの墓の土を踏みつけてやると歌っているぐらいです。

結局サッチャー首相がその座を降りたのは、1990年も終わりに近づいた時でした。その頃には貧富の格差がかなり開いていました。

その変化の予兆にいち早く気づき、自分の態度を表明したポール・ウェラーは、その後も政治思想を明確にしてきました。

このアルバムは全英6位まで駆け上がり、前作である「ザ・モダン・ワールド(This Is The Modern World)」が、全英22位止まりだったところから大きな飛躍を遂げています。

ジャムのラストアルバムである「ザ・ギフト(The Gift)」が発売された1983年には、ついに全英アルバムチャートで1位を記録しています。

その時の失業率はもう頂点になっています。

もちろんポール・ウェラーが人気取りをしたわけではありませんが、結果として骨のある熱血漢としてのイメージと、音楽の才能を多くの人が認めた結果、その後も多くの支持と人気を獲得しています。

ジャム解散後の「スタイル・カウンシル (The Style Council)」でも、おしゃれなサウンドから想像できないほどのメッセージ性が込められています。

この曲のどこがすばらしいのか

さて曲を聞いていきましょう。

まず「デイヴィッド・ワッツ」はキンクス(The Kinks)の曲のカバーです。

まずイントロで裏拍をとっている感じが半端ないですよね。

リック・バックラー(Rick Buckler)のドラムは、ジャム後期になるとかなり荷が重くなってきていますが、このようなタイトでシンプルな曲では映えますね。

むしろ良さが出ていると思います。

実はこの時期のポール・ウェラーは絶不調で、曲を書いてはボツにされていました。

この曲は次にご紹介する「チューブ・ステイション」と両A面という、ものすごい気合いの入りようです。

この頃のポール・ウェラーは、前シングルで初めてブルース・フォクストン(Bruce Foxton)の曲が採用されて、メインソングライターの地位も危うくなっていました。

悩めるポール・ウェラーは自分の地元に戻り、キンクスを聞いて復活したのだそうです。

確かに「デイヴィッド・ワッツ」はこのアルバムを象徴する曲ですし、アルバム屈指の名曲「ビリー・ハント (Billy Hunt)」も「デイヴィッド・ワッツ」を参考した感じに思えます。

次の「チューブ・ステイション」はドラマ仕立てで、冒頭から地下鉄の効果音から始まります。

緊張感のある出だしの後、Bメロからサビに駆け上がるところの展開がとてもスリリングです。

ジャムはポール・ウェラーのワンマンバンドみたいに言われますが、私はブルース・フォクストンのベースも大好きです。

特にこの曲のサビ周辺での野蛮なベースが最高ですね。

中盤から伸びまくり歌いまくりのポール・ウェラーのリッケンバッカーも絶好調です。

このアルバムでジャムは、初期のパンクサウンドからサウンドを大きく転換しました。

表面的な音の激しさに頼ることなく、スリムでタイトな音楽を作り出すと共に、時にはこの曲のように切迫感も可能にする表現力を手に入れました。

最後にこのアルバムを象徴する曲を、もう1曲ご紹介しておきます。

The Jam「English Rose」

先程この頃のポール・ウェラーは、左翼思想に傾いていたと述べました。その根本には自国を愛する気持ちがあったことを、この曲は伝えてくれています。

当時のイギリスの人は、そういうところもきちんと分かった上で、彼を評価していたのではないでしょうか。

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