「2つの類稀な才能の出会いが、この名カバー曲を生んだ!」
今回はホセ・フェリシアーノ「ワイルド・ワールド」(Album『ザット・ザ・スピリット・ニーズ』)をご紹介します。
╂ 本日のおすすめ!(Today’s Selection) ╂
■アーティスト名:Jose Feliciano
■アーティスト名カナ:ホセ・フェリシアーノ
■曲名:Wild World
■曲名邦題:ワイルド・ワールド
■アルバム名:That the Spirit Needs
■アルバム名邦題:ザット・ザ・スピリット・ニーズ
■動画リンク:Jose Feliciano「Wild World」
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ホセ・フェリシアーノ「ワイルド・ワールド」(アルバム:ット・ザ・スピリット・ニーズ)ディスクレビュー
こんにちは。おとましぐらです。(プロフィールページへ)
この人はジャンルの分類が難しい人です。
プエルトリコ出身の盲目のシンガーであり、スパニッシュギターの名手です。
しかもポップスの分野でも多くのヒット曲を出していて、普通のポップスの分野でも実績が十分です。
一般的にはドアーズ(The Doors)の「ハートに火をつけて(Light My Fire)」をカバーして大ヒットさせた人として有名です。
ただ私はそのカバーがあまり好みではありません。
というより「ハートに火をつけて」は意外なほど多くの人にカバーされていますが、おおよそ原曲とはかけ離れたイメージでカバーされている場合が多く、原曲に思い入れがある私はいつも何かが違うなと思います。
ホセ・フェリシアーノのカバーも、湯豆腐にソースをかけてしまったような時のような組み合わせの悪さを感じてしまいます。
ただそのカバーでも全然別の曲になっていますが、ボーカル自体は大変すばらしいと思います。
この人のボーカルは普通のポップスとして分類するにしては、あまりにソウルフルすぎます。
日本ではフリー・ソウルのコンピレーションでも取り上げられていますから、フリーソウルと分類するのが個人的にはしっくりきます。
この人の強みはフィーリングあふれる伸びやかな声のボーカルです。
今回ご紹介する曲では相性が最高で、原曲では淡々と歌われていますが、ボーカルの表現力でその曲の魅力を最大限に引き出すことに成功しています。
キャット・スティーヴンスの原曲について
原曲は1970年に発売されたキャット・スティーヴンス(Cat Stevens)の「ティー・フォー・ザ・ティラーマン(Tea for the Tillerman)」というアルバムに収録された、とても有名なヒット曲です。
この曲は原曲もも大変すばらしいので、念のためリンクを貼っておきましょう。
原曲の方を聞いたことがある人も多いと思います。
私もこのカバーを知る前から聞いていまたし、実際大好きな曲です。
現にアイランド・レコード(Island Records)のクリス・ブラックウェル(Chris Blackwell)も「ティー・フォー・ザ・ティラーマン」を「我々が今までにリリースした最高のアルバム」と言っているぐらいです。
そもそも世の中にカバー曲は数多あれど、原曲を超えるものはあまり多くはありません。
カバーというのは、ボクシングのタイトルマッチのごとく原曲と同じぐらいの出来だったら、やはり原曲の方がいいなと判断される宿命を背負っています。
私の感覚でも原曲を超えることができるカバーソングは10曲中1曲あるかどうかだと感じます。
ましてや原曲そのものが大変な名曲であれば尚更大変です。
この曲の歌詞は自分のもとから去っていこうとする恋人に対して「でも気を付けなさい。これからあなたの生きようとしているのはワイルドな世界なのですから」と、少し未練がましく忠告している内容です。
ホセ・フェリシアーノの経歴について
ホセ・フェリシアーノは11人兄弟の1人として生まれ、家計を助ける為に17歳で学校を辞めています。
当時父親が失業中だったのです。彼は1945年生まれですから、1962年頃に学校を辞めたと思われます。
それから彼は人前で演奏しては帽子にお金を募る生活をしていました。
そうした日々偶然大手レコード会社のディレクターに発見されてデビューしたのです。
「The Voice and Guitar of Jose Feliciano」でデビューしたのが1965年です。
彼の人生を時系列で整理してみたいと思います。
1945年 プエルトリコで生まれる。11人兄弟。生後まもなく失明。
1962年 家計を助ける為に学校を辞めて、音楽でお金をもらうようになる。
1964年 レコードデビューを果たすが、しばらくヒットに恵まれず。
1968年 「ハートに火をつけて」のカバーが大ヒット。
1971年 結婚。このアルバムを発表。
せっかく17歳まで通った学校を辞めて、家計を支える為音楽で細々と稼ぐ生活となった。
その後幸運に恵まれてデビューしたが、しばらくはヒットに恵まれず、やっとヒットを飛ばして落ち着いた頃に結婚したというわけです。
その頃に発表されたのがこの曲です。
この曲の頃は「でも気を付けなさい。これからあなたの生きようとしているのはワイルドな世界なのですから」と、昔の自分に言ってあげたい気持ちだったのではないでしょうか。
そういえばキャット・スティーヴンス自身も数奇な人生を歩んだ人でしたね。
この曲は激動のキャット・スティーヴンスの人生を思う時、予言的で意味深な歌詞のように思います。
背景も住む場所も全く異なる2人の浮き沈みの多い人生が、たまたまこの曲で交差した時、私は何かを感じたホセ・フェリシアーノのフィーリングを最高の域にまで高めたように感じます。
この曲のどこがすばらしいのか
さて曲を聞いていきましょう。
この曲の最大の鳥肌ポイントは1:00ぐらいのところで、彼は不意にシャウトしています。
このあたりから、あの偉大なチャンピオンであるキャット・スティーヴンスの原曲が、もしかしたら超えられてしまうかもしれないなと予感し始めることになります。
さて演奏はというと、まずフルートとギターが同時に始まります。
彼自身によるボッサな感じのガットギターがすばらしいですね。ボーカルが始まってもギターの活躍が続きます。
歌の合間で駆け上がるギターのフレーズは原曲を踏襲していますが、こちらの方が駆け上がり度が高くて、とてもスリルがあります。
他にもストリングスなどの音が入っていますが、ギターとボーカルだけでほぼこの曲が成立してしまうぐらい独自の世界を作り上げています。
ただ曲の中盤や後半にコーラスのところと、その時にアクセントで入るストリングスはなかなか秀逸です。
ここが一番好きだという人がいるかもしれません。
この曲は有名曲だけに多くのカバーがあります。
ミスター・ビッグ(Mr. Big)やマキシ・プリースト(Maxi Priest)、ジミー・クリフ(Jimmy Cliff)などのバージョンが特に有名かもしれません。
原曲そのものがすばらしいため、どれもなかなかの出来です。
私はこのすばらしい素材となる楽曲は、ホセ・フェリシアーノという類稀な表現力を持つ才能に出会った時にやっと、本当のポテンシャルが発揮されたように思います。
ここまでの絶妙な組み合わせは、そうはありません。
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