「歌詞を解読したらただの日本語と英語の混合ではないことが判りました」
今回はラブ・サイケデリコ「Your Song」「Last Smile」(Album『THE GREATEST HITS』)をご紹介します。
╂ 本日のおすすめ!(Today’s Selection) ╂
■アーティスト名:LOVE PSYCHEDELICO
■アーティスト名カナ:ラブ・サイケデリコ
■曲名:Your Song、Last Smile
■アルバム名:THE GREATEST HITS
■動画リンク:「Your Song」「Last Smile」
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ラブ・サイケデリコ「Your Song」「Last Smile」(アルバム:THE GREATEST HITS)ディスクレビュー
こんにちは。おとましぐらです。(プロフィールページへ)
今回はよく知られている曲を取り上げました。
ただもうかなり長い年月が過ぎているので、若い人は知らない人もいるのではないかと思って取り上げました。
どちらの曲も2000年にシングルカットされていて、アルバムの発売は2001年ですから、気がつくと相当昔の話です。
このアルバムが出た時には驚きました。洋楽っぽいなと思いました。
しかもオールドロックのざらついた感触が、借り物ではないように感じたからです。
それから世間でよく言われていたのは、英語か日本語が入り乱れていて、急に英語と日本語が切り替わっても違和感がないということでした。
大昔の日本のロック界では、日本語でロックができるか、日本語はロックに向いているだろうかという問題が、大真面目に議論されていたことがありました。
いわゆる日本語ロック論争です。
内田裕也などの英語で歌うべき派と、はっぴいえんどなどの日本語でもいいんじゃないか派との間に起こった論争です。
音楽ジャーナリズムやファンを巻き込んで議論されていました。
正確に言うと、日本語でもいいんじゃないか派が英語で歌うべき派に、それでいいのかという問題を突き付けられたのです。
私は後でそういう論争を知りましたが、この問題は日本の音楽が海外で展開しようとする時に、リアルな問題として今も残っています。
日本の中だけで音楽をやる分には、この問題は発生しません。
ただロックという音楽のフォーマットが海外から生まれたものです。
そして海外も視野に入れて活動する場合はこの問題と向き合うことが、とても重要になってきます。
このアルバムが発売された2001年は、JPOPの全盛時代です。
日本のCD販売枚数は1998年がピークで、この曲が発売された2000年でも、今では想像もできないぐらいCDが売れていました。
もう日本語で歌うのが当たり前だし、歌詞の意味が伝わった方がいいじゃないということで、なし崩し的にみんな日本語で歌っていました。
当時のヒット曲をいくつかあげておきましょう。
らいおんハート SMAP
慎吾ママのおはロック 慎吾ママ
SEASONS 浜崎あゆみ
ボーイフレンド aiko
日本語で歌うことが既成事実化してもう久しいという時、突然現れた黒船がこの人たちです。
この人たちの登場は日本語ロック論争を、一歩進ませたような気がしました。
まさか日本語と英語の区別化できないという形で解決されるとは思いもよりませんでしたが、KUMIという卓越したボーカリストの個人技であっさり乗り越えられてしまったのです。
意味不明と言われる「Last Smile」の歌詞を解読
さて今回は英語まじりの歌詞に、フォーカスしてみたいと思います。
英語と日本語の区別がつかないだけでなく、歌詞の内容も意味深です。
特に「Last Smile」の歌詞はとても意味を取るのが難しいですけども、がんばって挑戦したいと思います。
まず出だしの歌詞を引用します。
ホラ 抱き合える喜びは過ぎ去りし
I never look back again
過去の恋人との思い出を振り返るシーンから始まっています。
しかし相手への思いが断ち切れないという、せつない心情が歌われています。
なぜそんな状況になってしまったかというと、何か決定的なことがあったと示唆するのが、以下の箇所です。
嘘に濡れたって 罪は消えない 終わんない
何かがあったようですが、それが何かはっきり明示されていないまま、曲のハイライトを迎えます。
生命線からother way それから憂いてる夢ともget away
いつでも結ばれたくても君は目の前でlast smile
どうやら何か決定的な出来事があって、僕は相手に思いを残しているけれど、どちらかが犯した罪深い事件があって、恋人が僕の元を立ち去った、その時の最後の笑顔が忘れられないという曲のようです。
言葉の選択について、言葉遊びと韻を踏んでいるだけだと思われるところも多く、そのことがこの曲の意味を読み取りにくくしています。
一旦引いて全体を見ると、この歌詞から読み取れるのは、相手が永遠に失われてしまったという苦い思いです。
私は歌詞を読んで、もしかしたら相手が死を選んだのかなと思ってしまいました。
それをイメージさせる箇所を拾ってみます。
「夢で会えたって 一人泣いたって
君は change your way 響かない 届かない」「永遠からなるloser」
「いつか旅立ちたくても君は向こう岸でlast smile」
私はもしかしたらこの曲のポイントとなる部分を、英語の部分に隠しているのではないかと、あたりをつけました。
パズルのピースを組み合わせるポイントが、英語の箇所がないかと。そして見つかったのが、以下の箇所です。
I wish if we could see the light of heaven
I don’t know the color of sea, but there’s no reason
I wish if we were in the light of heaven
don’t go away…
この歌詞を訳してみたいと思います。
私たちが天国の光を見ることができたらいいのに
私は海の色を知りません 理由はありませんが、
私たちが天国の光の中にいたらいいのに
行かないで…
私たちが一緒に天国の光を見たかったという思いが歌われています。
ここで注目は「私たち」としているところです。
行かないでというのは、逆に言えば自分が取り残されたということでしょう。
一緒に天国の光を見たかったけれど、自分だけが取り残されてしまい、生き延びて途方に暮れている状況が読み取れます。
そもそも曲名からして「Last Smile」つまり「最後の笑顔」です。
私の解釈は大切な人と亡くしたことをテーマにした曲だというものです。
もちろん私の解釈が合っているかどうかは分かりません。
読む人なりの解釈があると思いますので、もし興味のある方は自分なりの解釈を考えてみたらいいのではないでしょうか。
ただ英語と日本語の組み合わせだと、このように謎めいた文脈にできるのだなと興味深く思いました。
彼らは少し浮かれていたような時代の空気の中で、こんな曲を出していたのですね。
この曲のどこがすばらしいのか
さて曲を聞いていきましょう。
「Your Song」はまずザックザックしたギターのリフが心地よいです。
彼らは英語まじりの歌詞やKUMIのボーカルと同時に、NAOKIのギターも魅力です。
とてもポップな曲ですが、ギターポップみたいな感じがしないのは、NAOKIのギターの印象が大きいです。
ただ背後に入っているハンドクラッピンな音がジャストに合わせすぎていて、打ち込みっぽいのが少し残念です。
もっと生音っぽい感じにした方がよかったと思います。
リンクを貼った動画ではNAOKIがあまり出てきませんが、がんばってほしいものです。
どの曲もそうですが、KUMIのボーカルが冴えまくっていて、そしてやはりこの曲でも歌詞の内容が難しいです。
おそらくは、頭の中がお花畑でほわほわ漂っているような恋人に対して、それじゃ全然伝わってこないよ、心の中を歌って見せてよ、そうしないと冷めちゃうよという内容だと思いました。
この人たちの歌詞は言葉遊びだけでなく、ある一瞬の状況を切り取るのがうまいと思います。
この曲はサビがとてもキュートです。本格派なのに、セールスと両立できる曲を書けるのが彼らの強みです。
自然の中で撮影された動画の内容もそうですが、曲調は後のナチュラル志向になる萌芽がこの時点から伺えます。
もう1曲の「Last Smile」の方は、アルバムバージョンやシングルバージョンの動画が見つかりませんでした。
Liveバージョンの動画のリンクを貼りましたが、これはこれでなかなかすばらしいです。
ここでのKUMIはグラム・パーソンズ(Gram Parsons)と一緒に歌っていた頃のエミルー・ハリス(Emmylou Harris)みたいなドレスを着ています。
普段のイメージとは違うファッションと髪型で、とてもかっこいいです。
曲調は憂愁を感じる曲です。
悲しい気持ちを歌い上げて解放するタイプのバラードは沢山ありますが、憂いを発散させず自分の中で消化しようとするような、こういうタイプの曲は少し珍しいですよね。
それが売れたのは曲の良さがあってこそですし、本格的なアメリカンロックサウンドに説得力があったということだと思います。
アメリカンロックのフィールドで日本のバンドが勝負して、本場に負けない曲をするなんて、なかなか感慨深いものがあります。
日本語ロック論争から考えさせられたこと
ここで日本語ロック論争の話に戻ります。
私は日本語でもいいじゃないか派です。
ただ英語で歌うべきという人の志の高さみたいなものは、リスペクトできる部分があると思います。
内田裕也が手掛けたフラワー・トラベリン・バンド(Flower Travellin’ Band)は、日本人も英語で歌って海外のロックに負けないところを示すべきという気概に満ち溢れていました。
そうした気負いのようなものが、確実に日本語のロックを高める原動力になったと思います。
現にフラワー・トラベリン・バンドは、今でも海外で大きな影響力を発揮しています。
今回このLOVE PSYCHEDELICOのアルバムについて、Amazonレビューをいくつか読んでみました。
その中に外国の方が、KUMIが英語と日本語を織り交ぜて歌っているのが好きだと、英語でコメントしているものがありました。
ああこの人たちのスタイルは海外で通用しているのだなと、思わずうれしくなりました。
日本のロックにとっても、一つの転換点になったアルバムであり曲かもしれません。
引き続きこのアルバムのAmazonレビューを読んでみたい方や、ご購入をお考えの方は、下のリンクからお進みください。