「マニアックな音楽ファンになる素質を確かめられるリトマス紙的名曲」
今回はニュー・ミュージック「ディス・ワールド・オブ・ウォーター」(Album『フロム・A・トゥー・B』)をご紹介します。
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■アーティスト名:New Musik
■アーティスト名カナ:ニュー・ミュージック
■曲名:This World of Water
■曲名邦題:ディス・ワールド・オブ・ウォーター
■アルバム名:From A to B
■アルバム名邦題:フロム・A・トゥー・B
■動画リンク:New Musik「This World of Water」
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ニュー・ミュージック「ディス・ワールド・オブ・ウォーター」(アルバム:フロム・A・トゥー・B)ディスクレビュー
こんにちは。おとましぐらです。(プロフィールページへ)
これまで私がご紹介してきた曲の中には、音楽に詳しい人にとっては当たり前と思われるものも多く含まれています。
一般的な知名度がほとんどないけれど、音楽をある程度知っている人には当たり前というものです。
名盤100選みたいなものには、まず入ることはないでしょう。
1000枚ぐらい取り上げたディスクガイドだったら入るかもしれません。
ただそもそもそんなボリュームの本を買う人は、元々音楽に詳しい人か、これからすぐに詳しくなる人です。
プログレであればオパス・アヴァントラ(Opus Avantra)などは、プログレマニアにとっては今更な存在です。
普通の人や一般的なロックファンには知らない人も多いと思います。
プログレに限らずサブジャンルで定番化しているアルバムには、名盤100選に入らなくても、出来がそう変わらないものが多いです。
むしろそのサブジャンル内で受けやすい、マニアックな良さがある音楽は、その特徴さえ自分にはまれば、一般的な名盤よりも気に入ることが少なくありません。
今回ご紹介したいのはそういう音楽です。
今回ご紹介するのは、テクノポップです。
私の耳には一発でマニアの心をえぐる、エグい曲のように思われます。
もし以下のバンドが好きならば、このバンドをチェックする必要があります。
初期XTC(XTC)
初期のカーズ(The Cars)
バグルス(The Buggles)
80年代のクラフトワーク(Kraftwerk)
もし初めてこの曲を聞いて有名なロック名曲以上だと思ったら、その人は音楽にはまる素質のある人です。
私と同じ世界の住人になるでしょう。
そういう意味で、この曲はリトマス紙となるような曲だと思います。
表面上はポップの衣装をまとってはいますが、このバンドは実験的で野心的なところを隠していません。
今から聞くとレトロフューチャーっぽく感じられますが、しかし美意識を元にした尖ったサウンドは、今でも充分魅力的です。
次の章では少しマニアックな話になりますので、興味のない方は飛ばして、最後の章をお読みください。
デビュー前とデビュー時のトニー・マンスフィールドの周辺について
ニュー・ミュージックは1977年にリーダーのトニーマンスフィールド(Tony Mansfield)を中心に結成されたグループです。
ファーストシングルが1979年、ファーストアルバムが1980年のリリースですから、デビューから少し間があります。
このアルバムを聞いて分かるのは、デビューアルバムの時点で、このバンドには確固たるサウンドビジョンがあったということです。
私は初期の頃、トニー・マンスフィールドの周辺で様々な動きがあったことが影響していると思います。
まずあまり知られていませんが、トニー・マンスフィールドはニュー・ミュージックと同時に、ニック・ストレイカー・バンド(Nick Straker Band)にも所属していました。
ニック・ストレイカーという人物は、1979年まではニュー・ミュージックのメンバーだった人です。
トニー・マンスフィールドとニック・ストレイカーは、相互に自分がリーダーのバンドに在籍し合っていたということになります。
ニック・ストレイカー・バンドは、裏ニュー・ミュージックといえるバンドといえるかもしれません。
そのぐらい重要な存在だったら、トニー・マンスフィールドにも影響を与えていてもおかしくありません。
ニック・ストレイカー・バンドの曲のリンクを貼っておきましょう。1980年の曲です。
Nick Straker Band「Leaving On The Midnight Train」
ファルセットボーカルが入るとニュー・ミュージックと違う印象になります。
しかしこのリズムには少し「フロム・A・トゥー・B」の萌芽が感じられないでしょうか。
また私はこの曲に別の香りも感じました。
ドナ・サマー(Donna Summer)などのプロデュースで有名な、ジョルジオ・モロダー(Giorgio Moroder)の影響です。
ニック・ストレイカーは純粋なロック、ポップス畑の人ではなく、もともとそちらに興味があった人です。
少しディスコっぽいですが、リズムの音が硬質で少し即物的なリズムに、私の耳は同じ音のDNAを感じます。
おそらくもう少し妥当な曲もあると思いますが、いま一つ思いつきませんでした。
この人の名前が出てくると、急にジャンルが変わったように思う方もいるかもしれませんが、ジョルジオ・モロダーはニューウェーヴバンドのブロンディ(Blondie)の「Call Me(コール・ミー)」をプロデュースした人です。
そういえばダフト・パンク(Daft Punk)もジョルジオ・モロダーからの影響を公言しています。
以下の順に次第にリズムの音が、よりカタく即物的になってきています。
ジョルジオ・モロダー
→ニック・ストレイカー・バンド
→ニュー・ミュージック
あと彼らの初期の人脈を調べると、あの「ラジオ・スターの悲劇(Video Killed the Radio Star)」で有名なバグルスに繋がる人脈も出ています。
後ノリのドラムとかタメとか、それは何ですかという感じでしょうか。
レイドバックしたロックとは正反対の世界です。
どの人もみんなエレクトリックで、未来的なモダンサウンド志向で、リズムがジャストで、シンセサイザー狂いの面々ばかりです。
トニー・マンスフィールドも後に、キャプテン・センシブル(Captain Sensible)、A-HA、ネイキッド・アイズ(Naked Eyes)、マリ・ウィルソン(Mari Wilson)などのプロデュースで名前を上げています。
この頃のトニー・マンスフィールドの周辺と興味の範囲には、まだ80年代の幕が開けたばかりだというのに、既に80年代音楽の裏方として活躍する主役級たちが、ゴロゴロとひしめきあっていたのです。
ちなみにこのアルバムは、YMOの高橋幸宏の推薦で日本盤が出たという逸話もあります。
後年トニー・マンスフィールドは高橋幸宏のプロデュースもしていたことも、付け加えておきましょう。
この曲のどこがすばらしいのか
さて曲を聞いていきましょう。
まずイントロの少しセンチメンタルなキーボードが始まった時点で、既に名曲の予感が漂います。
そこに入る性急に刻むドラムが、この曲がテクノポップたる理由です。
感傷的ともいえるキーボードと性急なリズムの組み合わせが、ああセンスがあるんだな感じさせてくれます。
そしてサビはメインボーカル以外に、加工したボーカルが重なります。この加工したボーカルがとても効果的に響きます。
テクノポップ以外で表現すると、ストレンジポップ、シンセポップとも言えるかもしれません。
私なりにレトロ風に表現すると、イキったトンガリナンバーです。
それにしても中毒性が高い曲です。
私は本当にこの曲が大好きで、逆にこういう曲を好きだからこそ、自分は音楽ジャンキーになったのだなと、素直に自分の業を再確認させてくれます。
ただこのアルバムにはもう少し変なところを抑えた名曲もたくさん収録しています。
時にはネオアコっぽいところが感じられる瞬間もあったりします。もう少し聞きやすい曲のリンクも貼っておきましょう。
このアルバムは全英チャートで35位まで上がりましたが、このアルバムからはなんと4曲もシングルカットが出て、どれもそこそこヒットしました。
リリース順に挙げておきましょう。
「ストレイト・ラインズ(Straight Lines)」53位
「リヴィング・バイ・ナンバーズ(Living By Numbers)」13位
「ディス・ワールド・オブ・ウォーター(This World Of Water)」31位
「サンクチュアリ(Sanctuary)」31位
ジャケットについて
さて最後にジャケットについても触れておきましょう。
このジャケットを見ると、いくつか不自然さに気づきます。
まずそっけないガラスコップに一輪の花がありますが、花はコップの中で不自然にもまっすぐに立っています。
そして左右に影が配置されていますが、これは自然光ではなく、二方向から光を当てないとこうはなりません。
一瞬表現したいのは花ではなく、花の影ではないかと邪推したくなります。
背景は少しゆがんでいるように見えなくもありません。
その中で屹立する花は一輪だけなのに、思いのほか茎が太く、控え目な曲線が美しいです。
葉の角度がとても美しいのですが、たゆむ感じがなく、不自然なほどにまっすぐです。
こちらを向かず横を向いているような花は、まるで美しい横顔のポートレイトのように、この摩訶不思議な構図の中で、凛とした自己主張をしています。
私はこの美意識あふれるジャケットが、この人たちの本質を表しているように感じます。
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