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Rahsaan Roland Kirk「I Believe in You」(アルバム:Domino)

「自由な精神を持ったロックアーティストやクリエイターから絶賛される、破天荒なジャズメンの名曲」

この人はジャズ畑の人ですが、あまりジャズと意識する必要はないかもしれません。

ポストパンクのリップ・リグ&パニック(Rip Rig + Panic)は、この人のアルバム名から名付けられました。

また忌野清志郎にも影響を与えたとされる人です。

本当の意味でのフリージャズで、ノンジャンルな人かもしれません。

せせこましいジャンルとか常識に縛られない音楽を演奏する人です。

この曲ではまだ後の時代ほど破天荒ではありませんが、この頃から既にその資質が現れた音楽をやっています。

本日のおすすめ!(Today’s Selection)

■アーティスト名:Rahsaan Roland Kirk
■アーティスト名カナ:ローランド・カーク
■曲名:I Believe in You
■曲名邦題:アイ・ビリーヴ・イン・ユー
■アルバム名:Domino
■アルバム名邦題:ドミノ
■動画リンク:Rahsaan Roland Kirk「I Believe in You」

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ローランド・カーク「アイ・ビリーヴ・イン・ユー」(アルバム:ドミノ)ディスクレビュー

こんにちは。おとましぐらです。(プロフィールページへ

この人は後年にリリースされた「ヴォランティアード・スレイヴリー(Volunteered Slavery)」などの一連の作品が有名です。

それらのアルバムでは、バート・バカラック(Burt Bacharach)、スティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)、ジャクソン5(The Jackson 5)などの名曲を取り上げています。

恐るべきはその演奏内容です。

ソウル・ミュージックの曲はともかく、ポップスの曲をカバーしたジャズ演奏については、私はあまり良い演奏を聞いたことがありません。

表面的にメロディをなぞってお終いか、もしくは原曲の持ち味を消すような魔改造をして、曲本来の持ち味を台無しにするケースが多いからです。

しかしこの人に限っては、そんなことはありません。

先程挙げた曲のどれもが名曲ばかりですが、カークの演奏は原曲に匹敵しているか、もしくは上回る出来です。

原曲の愛らしさやピースフルな空気感を損なわず、それなのに自由奔放に表現するという離れ業をやってのけています。

その自由さはこの人自体にも感じます。傾奇者的な自由さといえるかもしれません。

このアルバムの前作は「ウィ・フリー・キングス(We Free Kings)」つまり「我々は自由な王様だ」というタイトルです。

この人はとても自由奔放な一方で、生後間もなく視力を失っています。

では目が見えないことは不幸なことなのでしょうか。私はこの人を見ると、あまり不幸そうには感じません。

それどころか、むしろ自由になった感じすらします。


大道芸人的なマルチ奏者としての側面

まずこの人はマルチ奏者として有名です。

時には様々な楽器を同時に吹いたりしています。そのため、昔の生真面目なジャズ・ファンからは、キワモノ的に見られることもありました。

ビジュアル的には、こんな感じです。

Roland_Kirk

大体多くの場合、テナーサックス、マンゼロ、ストリッチの3本をぶら下げていて、時には鼻にホイッスルを付けていたり、体にパーカッションを付けていたりしています。

様々なバリエーションがあって、中には着ている服がよく分からないぐらいのぶら下げ方になっている場合もあります。

マルチ奏者というよりも、大道芸人に近い世界です。

見た目的にスマートでないことは確実ですが、ただこれは人をおもしろがらせるためではありません。

後で触れますが、実際に音楽的に効果を挙げています。

複数楽器を同時に吹いて得もいわれぬ音色を出したり、楽器をすばやく切り替えてシームレスにメロディを引き継いだりしています。

目が見えたら、その楽器をゴテゴテぶら下げる見た目の奇妙さを恥じて、そんなことをしなかったかもしれません。

おそらくこの人は自分の中に表現したいものがあって、それを表現したい時、本人的には合理性を重視して楽器をぶら下げていたのでしょう。

カークにはそういう自由な気質があります。


多方向での影響力について

この人はとてもジャンル分けが難しい人でもあります。

ジャズを演奏しているとはいえますが、ただその振れ幅が思いのほか大きいのです。

今回ご紹介する曲はこの人の中でも、正統派のジャズといえそうな演奏です。

しかしある時には大昔のラグタイムっぽいところがあったり、黒人霊歌みたいなスピリチュアルな音楽をやっていたり、めちゃくちゃポップなアルバムがあったり、フリージャズに近い激しい演奏だったりします。

この人の音楽はつなぎ目がない、シームレスなところがあって、まさしく本来の意味でのフリージャズといえるかもしれません。

ロックファンは、この人のアルバム「リップ、リグ&パニック(Rip, Rig and Panic)」からとられた、リップ・リグ&パニック(Rip Rig + Panic)というバンドをご存知かもしれません。

ご存じない方のために解説しておくと、リップ・リグ&パニックは、スリッツなどと同じようなポストパンクのバンドです。

ポストパンクの人たちの自由さは、ローランド・カークの正当な後継者といえるかもしれません。

またクラブミュージックを好む人は、この人の影響を公言するDJやクリエイターのインタビューを、何度か読んだことがあると思います。

日本ではRCサクセションの曲の「あふれる熱い涙」は、カークのアルバム「The Inflated Tear(溢れ出る涙)」からとられたといわれています。

ウィキペディアにもこんな記述がありました。

ジェレミー・スティーグやテイス・ファン・レール、ジェスロ・タルのイアン・アンダーソンは、フルートを吹きながらハミングするカークの演奏技巧に影響を受けた。

ウィキペディア ローランド・カーク

フルート拭きながらハミングって、要するに鼻歌を歌いながらフルートを演奏することですよね。

もちろんお行儀がいいはずがありません。

そもそも影響を与えた人が、全然バラバラな音楽性の人たちですよね。

それはカーク自体が無勝手流の拳法の使い手みたいなところがあって、型がないことが型みたいなところがあります。

要するに自由な心を持って演奏する人の背中を押す、精神的なバックボーンみたいな人だと思います。

この曲のどこがすばらしいのか

さて曲を聞いていきましょう。

まずイントロなしでいきなりテナーサックスから始まります。

それに絡むピアノが小気味いいです。

おそらくこれはウィントン・ケリー(Wynton Kelly)のピアノだと思います。

実は以前このアルバムのレビューを読んでいたところ、このアルバムのケリーの演奏は、実はハービー・ハンコック(Herbie Hancock)ではないかと書いている方がいました。

しかしその方には悪いですが、実際聞くとこの演奏はウィントン・ケリー以外に考えにくくないでしょうか。

誰かにウィントン・ケリーってどんなピアニストなんですかと聞かれたら、この演奏を聞かせてもいいぐらい、典型的なケリー節だと思います。

ここでのケリーのピアノは、笑えるぐらいまじめくさって吹いているカークのテナーサックスによく絡む、最高の演奏をしています。

合間に駆け上がるところの気持ち良さといったら、もう絶品としかいいようがありません。

ケリーって本当に、ホーン奏者に対するカウンターメロディの取り方が上手いピアニストです。

その後、カークが急に楽器を持ち替えてメロディを吹き始めます。おそらくストリッチだと思います。

少し自信がないのは、カーク以外にストリッチという楽器の演奏をあまり聞いたことがないからです。

どうやらアルトサックスっぽい楽器みたいですから、それだと思いました。

さてこの演奏の聞きどころは、2:40ぐらいからのところです。

まず複数のホーン奏者によるサックスの合奏部分に思えるところは、おそらくカーク1人で演奏しているものです。

そして2:56に事件が起こります。ホイッスルみたいなものでケリーにソロ演奏を促します。行けという感じでけしかけていますよね。

これがカークです。

一応ケリーは音楽キャリア的にも、年齢的にも先輩です。

もしマイルス・デイビス(Miles Davis)にこんなことをしたら、演奏が止まって不穏な空気が流れるでしょう。

しかしケリーの絶好調なピアノは止まりません。

この曲を聞く度に、こんな小作品にも自由な精神を感じさせてくれるカークは、やはり偉大な人だったのだなと感じます。

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ドミノ+4 [完全盤]

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