「ビートルズの影響が感じられるポジティブなメッセージを持った作品 山下達郎さんもおすすめ」
今回はザ・ラスカルズ「雨の日」「素晴らしき世界」(Album『夢見る若者』)をご紹介します。
╂ 本日のおすすめ!(Today’s Selection) ╂
■アーティスト名:The Rascals
■アーティスト名カナ:ザ・ラスカルズ
■曲名:Rainy Day、It’s Wonderful
■曲名邦題:雨の日、素晴らしき世界
■アルバム名:Once Upon a Dream
■アルバム名邦題:夢見る若者
■動画リンク:「Rainy Day」「It’s Wonderful」
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ザ・ラスカルズ「雨の日」「素晴らしき世界」(アルバム:夢見る若者)ディスクレビュー
こんにちは。おとましぐらです。(プロフィールページへ)
今回はブルーアイドソウルの曲をご紹介します。
彼らはデビューの頃と後期では、かなり音楽性が違います。
初期はもっといかにもブルーアイドソウルという、熱いソウル魂を感じさせる音楽でした。
そしてなにより個々の曲に力がありました。
一方後期はより洗練されて、フュージョンっぽいところも出てきます。私はサウンド自体は後期が好きです。
このアルバムは1968年に発表された4枚目で、アルバムチャートで9位を獲得しています。
ちなみにこのアルバムからグループ名を「The Young Rascals」から「The Rascals」へと変えています。
バンド名の切り替わりというだけでなく、この時期はサウンドも境目といった感じです。
まだサウンドは後年ほど洗練されていないにしても、私には初期と後期の良さをいい塩梅で含んでいるような魅力が感じられます。
初期の少し荒さが取れてきたサウンドは、洗練されたソウルミュージックっぽいだけでなく、どことなくラヴィン・スプーンフル(Lovin Spoonful)を思い起こさせる部分もあります。
彼らのアルバムの中でどのアルバムが一番好きかと言われたら、七転八倒、櫛風沐雨の末、このアルバムにするかもしれません。
私はこのアルバムの空気感が好きです。
どことなく前向きな空気が充満している、理屈を超えてどの曲にも心を軽くする雰囲気が感じられます。
この原稿を書く前にAmazonのレビューを読んだところ「山下達郎がBest1にあげる」と書いてありました。
山下達郎さんが一番好きなのは「グルーヴィン(Groovin’)」だと思っていました。
ラスカルズ大好きの達郎のことですから、どちらも同じぐらい好きでもおかしくありません。
むしろこちらのアルバムをより好むという方が、音楽的にはしっくり来るところがあります。
今回取り上げた「Rainy Day」からイメージをふくらませたのが達郎の名曲「Rainy Walk」ではないかと想像したりもします。
ただこのグループは他にもいいアルバムがありすぎて、どのアルバムを聞いてもこれが一番好きかもしれないと思うことがあります。
まあ「コレクションズ(Collections)」以外ですけどね。
ジャケットの彫刻は、ドラムのディノ・ダネリ(Dino Danelli)作のようです。
右下に布袋様みたい人物がいますね。
彼らにしては初めて良いなと思えるジャケットです。そのせいでこの作品により愛着が湧くのかもしれません。
コンセプトアルバム形式とメッセージ性に感じられるビートルズの影響
この作品はコンセプトアルバムです。
コンセプトアルバムとは、あるテーマに沿って多様な楽曲を配置し、アルバムを聞き終わった時に、ある特定のイメージをリスナーに喚起させるようなつくりのアルバムのことです。
このアルバムは「夢見る若者」という邦題が表しているように、アルバム全体で肯定的なメッセージを訴えています。
それは音だけでなく、歌詞にも現れています。
「雨の日」の歌詞は、私たちは歩き出しますが、話す必要はありません、私は彼女のすばらしさに出会っているのですから、雨の日はロマンスには最適な時間という内容です。
つまり彼女の存在によって、雨の日には雨の日の良さがあることを発見したと歌っている曲です。
「素晴らしき世界」は、曲名が示している通りの内容です。歌詞を一部翻訳してみましょう。
私たちの栄光のすべてが、シェアすべき問題を気づかせてくれました
私たちが団結すれば、すべてがうまくいくでしょう
それはすばらしいこと
私がそう信じていると、あなたは感じています
すばらしい
すべてはうまくいくのです
すばらしい
私はあなたをそこに連れていきます
私はこのアルバムのコンセプトには、ある曲の存在があると推測しています。
このアルバムの録音開始日は1967年9月21日です。
その少し前に世界的に話題となった、音楽的大事件がありました。
ビートルズ(The Beatles)は当時は新曲であった「愛こそはすべて(All You Need Is Love)」を、世界24ヵ国に生放送で同時配信しました。
1967年6月25日のことです。
当時は世界一のロックバンドとなっていたビートルズが、単に新曲を発表したというだけでなく、全世界に平和を訴えるという内容です。
視聴者数はなんと3億5000万人にも上りました。
日本でもNHKが放送して、当時は大変な話題になったようです。
また、このアルバムはコンセプトアルバムですが、それもビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド(Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band)」の影響だと言われています。
彼らは他の多くのミュージシャンと同様に、ビートルズから多大な影響を受けています。
時系列でまとめておきましょう。
1967年6月1日 ビートルズが世界初のコンセプトアルバムを発表
1967年6月25日 ビートルズが「愛こそはすべて」を世界衛星生放送
1967年9月21日 ラスカルズがコンセプトアルバムのレコーディング開始
1968年2月19日 ラスカルズがコンセプトアルバム「夢見る若者」をリリース
アルバムが発売されたのは1968年ですが、これは1967年7月31日にヒット作「グルーヴィン」をリリースしたばかりなので、間を置いたのだと思われます。
それでも「グルーヴィン」と「夢見る若者」のリリース間隔は7ケ月ぐらいです。
この短い間にこのような充実作を立て続けにリリースしたことは、この時期にバンドの創造力がピークを迎えたことを示しています。
それを刺激したのが、ビートルズだったと思います。
ちなみにビートルズの「愛こそはすべて」についても、一部の歌詞を翻訳しておきましょう。
君がつくることができるもので、つくれなかったものはない
君が救うことができたのに、救えなかった人はいない
話すことがなくても、どうすれば君らしくいられるか学ぶことはできる
簡単なことさ君が必要としているのは愛だけだ。
ラスカルズと同じくとても前向きなメッセージです。
ここでポイントは他者に働きかけようとしていることです。
先程の「素晴らしき世界」と「愛こそはすべて」はどちらも、あなたにもできるはずだ、きっとうまくいく、さあ一緒に始めよう、という感じのことを歌っている曲です。
同じ時代の空気を吸っている感じがしないでしょうか。
この曲のどこがすばらしいのか
さて曲を聞いていきましょう。
「雨の日」はセリフの後に、洗練されたソウルミュージックのようなコーラスがとてもすばらしいです。
ラスカルズは全員白人ですが、イントロはエスコーツ(The Escorts)あたりのスイートソウルの黒人グループが歌っていてもおかしくない始まり方です。
その後フェリックス・キャヴァリエ(Felix Cavaliere)のボーカルが、感動的に歌い上げます。
ところどころに雨が降っているような効果音が気分を盛り上げますが、若干チェンバー色が感じられる、とても趣味の良いサウンドだと思います。
この曲の一番の鳥肌ポイントは2:18のところからです。
急に大音量でストリングスが舞うと、一瞬私の意識が飛びそうになります。
その前に趣味が良いシンプルなサウンドは、この盛り上がりを際立出せる為の伏線だったのかもしれません。
このアルバムの演奏はチャック・レイニー(Chuck Rainey)、キング・カーティス(King Kurtis)、ロン・カーター(Ron Carter)、ヒューバート・ロウズ(Hubert Raws)なども参加しているようです。
このアルバムあたりから、次第にサウンドが洗練されています。
ただどのアルバムもバンドの美意識を感じさせてくれているので、演奏をプレイヤー任せにしている感じがしません。
もう1曲の「素晴らしき世界」は「グッド・ラヴィン(”Good Lovin’)」を思わせるような勢いのある曲です。
心弾むサイケデリックポップといった趣きで、こちらの方は初期の彼らっぽいところが感じられます。
こちらもコーラスがとても効果的です。
あまり語られることがありませんが、私はこの人たちのコーラスがとても好きで、半ばコーラスグループだと思っているぐらいです。
曲の冒頭に遊園地みたいな効果音が入りますが、曲の合間にも効果音が入ったり様々な演出もあって、このあたりはまさしくビートルズの影響が出ていてほほえましいです。
こちらはシングルカットされ、ビルボードのシングルチャートで20位を獲得しています。
前作がヒットしたこともあり、乗りに乗っていることがこの曲からも感じられます。
現代は単純な楽観主義みたいなものが、とても難しい時代かもしれません。
しかし身構えすぎていたり予防線を張りすぎていると、人生がつまらなくなりま。
時にはこういう肯定的なメッセージで正面突破しようとする音楽に耳を傾けてみるべきかもしれません。
山下達郎さんをも魅了した極上の逸品をぜひお聞きください。
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