「ディスコを経由してから改めて示してみせたボーカルグループの魅力を堪能できる曲」
今回はスピナーズ「アイ・ジャスト・ウォント・トゥ・フォール・イン・ラヴ」(Album『ラヴ・トリッピン』)をご紹介します。
╂ 本日のおすすめ!(Today’s Selection) ╂
■アーティスト名:The Spinners
■アーティスト名カナ:スピナーズ
■曲名:I Just Want to Fall in Love
■曲名邦題:アイ・ジャスト・ウォント・トゥ・フォール・イン・ラヴ
■アルバム名:Love Trippin’
■アルバム名邦題:ラヴ・トリッピン
■動画リンク:The Spinners「I Just Want to Fall in Love」
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スピナーズ「アイ・ジャスト・ウォント・トゥ・フォール・イン・ラヴ」(アルバム:ラヴ・トリッピン)ディスクレビュー
こんにちは。おとましぐらです。(プロフィールページへ)
今回はソウル・ミュージックのボーカル・グループを取り上げます。
このグループは1967年のデビューですから、このアルバムが発表された1980年には、もう10年以上のベテランでした。
1967年から1980年という時代というのは、一斉に色々な可能性が芽吹き様々な変化があった、ポピュラー音楽の思春期みたいな時期です。
スティーヴィー・ワンダーみたいに、自ら様々な音楽の可能性を切り開いていく人もいましたが、実力がある多くのアーティストも、四苦八苦しながら変化を受け入れていました。
ロックはパンクが最大の出来事だったかもしれません。ソウルはディスコにどう対応するかが、とても大きな問題だったように思います。
なにせ典型的なサザン・ソウルのシンガーであるジョニー・テイラー(Johnnie Taylor)ですら「ディスコ・レディ(Disco Lady)」という曲をリリースしていた時代です。
その中でスピナーズがディスコという大波をどう乗り越えたか、そしてその後が、私は興味深いと思っています。
まず私の立ち位置を説明すると、私はディスコというものは嫌いではありません。
従ってディスコ寄りのサウンドになったからといっても、特に失望したりはしません。
結局は良いか悪いかだと思います。まあ私はハイ・エナジーも追いかけている人ですからね。
ただ多くのまじめなソウルファンにとって、ディスコ寄りの変化はあまり好ましく思われていないように思います。
多くのソウルファンは、表面的にディスコの要素を見つけてそう言っているわけではありません。つまらないと言うのには理由があります。
実際彼らがディスコっぽくなってつまらなくなったと言う時、私も同意できることが多いです。
ただ私はその後が重要だと思っています。なぜならそこにそのミュージシャンの本音が出てくると思うからです。
全盛期とそれが過ぎてからの変遷
おそらくスピナーズのセールス的な全盛期は、1970年に発表された「セカンド・タイム・アラウンド(2nd Time Around)」から、1975年の「フィラデルフィアの誇り(Pick of the Litter)」でしょう。
この時期の彼らは、コンスタントにアルバムチャートで全米トップ10周辺ぐらいまで売れていました。
彼らはフィリーソウルの屋台骨を支えていたグループの1つでした。
「Pick of the Litter」の邦題を「フィラデルフィアの誇り」と付けたレコード会社の担当者は、本心でそう思い自信を持ってその邦題を付けたことでしょう。
しかしその後彼らは、なだらかに低迷していきます。
1978年の「フロム・ヒヤ・トゥ・エターナリー(From Here to Eternally)」ぐらいになると、アルバムチャート165位、頼みの綱であるR&Bチャートでも61位という状態です。
おおよそアルバムチャートで200位が見えてくると俵に足がかかった状態となります。
要するにレーベルのリストラ対象として、名前が挙がってくるというわけです。
ではその大惨敗した「フロム・ヒヤ・トゥ・エターナリー」を聞いてみるとどうでしょうか。
私は全盛期と何一つ変わらない、たいへんすばらしい音楽だと思います。
おそらく今日と明日、何度か聞き返さないといけないなと思いました。惚れ惚れする出来です。
しかしすばらしい音楽をやっていたからといって、必ず報われるとはかぎりません。
すばらしい音楽をやっているのにセールスが低迷すると、何をやったらいいか分からなくなるかもしれません。
もう後がない状態となっていた彼らにも、大きな変化がありました。
1977年に看板シンガーであるフィリップ・ウィン(Philippe Wynne)がグループを去り、代わりにジョン・エドワーズ(John Edwards)が加入しました。
全盛期を一緒に過ごしたプロデューサーもトム・ベル(Thom Bell)から、マイケル・ゼーガー(Michael Zager)に変わりました。
当時のマイケル・ゼーガーは、ディスコ方面に強みを持っていた人です。
実は今回ご紹介する曲の前作「ダンシン・アンド・ラヴィン(Dancin’ and Lovin’)」でスピナーズは、がっつりとディスコ寄りに変わりました。
このアルバムを毛嫌いする人も多いのですが、私にはディスコ寄りではあるけれど、今の耳で聞くとそれほど悪くないと思います。
リンクを貼っておきましょう。
The Spinners「Melody:Working My Way Back to You / Forgive Me,Girl」
上の曲がシングルカットされて、起死回生の大ヒットを記録しました。なんとシングルチャート2位です。
ちなみにその前の「Body Language」というシングルは、100位にも入っていません。ディスコに走った彼らは、セールス面で息を吹き返したのです。
このアルバムは彼らの思いが詰まっている
そしてその次がこのアルバムです。
前作が大ヒットしたので、その路線でいくと思いましたが、全体としては正攻法のソウル・ミュージックに回帰しています。
安心して聞けるボーカルグループのアルバムです。
ディスコを回避して、もう少し落ち着いた都市型ソウル・ミュージックを狙ったのかなと思います。
ディスコでヒットしたけど、やはりディスコでは今後やっていける気がしなかったのかもしれません。
彼らは元々外見的に、若者や女性からキャーキャー言われるタイプでもありません。しかしその代わりに、確かな実力がありました。
生き延びる為に、一時は意に沿わない仕事もしたかもしれません。
しかし自分たちの良さはそこにはない、前作がヒットしてから、そこを冷静に見極めた感じがします。
このアルバムには古いソウル・ミュージックの良さを改めて見直したような、リフレッシュした感じがあります。
それを示しているのが、サム・クック(Sam Cooke)の「キューピッドよ、あの娘をねらえ(Cupid)」をカバーした「Cupid” / “I’ve Loved You for a Long Time” (medley)」です。
このアルバム収録されていて、シングルカットもされました。
サム・クックという人はソウル・ミュージックファンにとって、時々立ち返るべき原点みたいな人です。
「いきなりディスコで驚かせちまったけど、俺たちは古いスピリットを忘れたわけじゃないんだよ」とでも言いたげに感じます。
私は頑固一徹なミュージシャンが好きですが、彼らのように大人な対応で柔軟に変化に対応して、しかし自分たちの良さを守り続ける人も嫌いではありません。
この曲のどこがすばらしいのか
さて曲を聞いていきましょう。
この曲はシングルカットされていませんが、私がこのアルバムで一番好きな曲です。
おそらくコーネル・デュプリー(Cornell Dupree)などが参加しているバックのサウンドは、少し都市型のサウンドを意識しているのかなと思います。
まず曲は最初からひと盛り上がりをつくる、トニー・マコウレイ方式で始まります。
あれスピナーズってこんなリードボーカルだったけと思う人もいるかもしれません。
このバンドの最大のヒットである「イッツ・ア・シェイム(It’s a Shame)」の頃とは、リードボーカルが違います。
ジョン・エドワーズはグループに参加する前からソロキャリアを積んできた人ですが、やはりこのグループに加わろうとする人ですから、当然のごとく実力派です。
ボーカル・グループの醍醐味は、音域が違うボーカルとの絡み、そしてコーラスを背負ってのリードボーカルです。
たしかにディスコでもそういうボーカルの絡みはあっても、それが中心になるわけではありませんから、きちんとボーカルの絡みを聞かせてくれるこういう曲を聞くと安心します。
演奏もすばらしいとは思いますが、魅力は第一に歌、第二も歌です。
3:10ぐらいのところからのスクリーミングも、たいへんテンションが上がります。私はここが一番の聞きどころだと思います。
この曲は前作でディスコをやっていたとは思えないぐらいの、堂々たる横綱相撲のボーカルグループっぷりです。
先程私はディスコ自体は嫌いではないが、ディスコに傾倒して残念になった人もいるというようなことを書きました。
生き延びる為に一時的に迷走してもいいと思いますが、最終的に魂まで売ってしまわないようにしないといけません。
その点このグループは魂を売っていませんでした。それを如実に示している熱い歌に、ぜひ注目してお聞きください。
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