「アシュトン兄弟による熱狂のグルーヴに 血が沸騰すること間違いなし!」
今回はストゥージズ「1969」「ノー・ファン」(Album『イギー・ポップ・アンド・ストゥージズ』)をご紹介します。
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■アーティスト名:The Stooges
■アーティスト名カナ:ストゥージズ
■曲名:1969、No Fun
■曲名邦題:1969、ノー・ファン
■アルバム名:The Stooges
■アルバム名邦題:イギー・ポップ・アンド・ストゥージズ
■動画リンク:「1969」「No Fun」
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ストゥージズ「1969」「ノー・ファン」(アルバム:イギー・ポップ・アンド・ストゥージズ)ディスクレビュー
こんにちは。おとましぐらです。(プロフィールページへ)
彼らはオリジナル・パンクと言っていいバンドです。
「ノー・ファン」の方はセックス・ピストルズ(Sex Pistols)もカバーしていますが、この人たちの曲は他の多くのパンクバンドにもカバーされています。
ピストルズのカバーバージョンは聞いたことがない人も多いと思いますので、リンクを貼っておきましょう。
リーダーは通称「淫力魔人」イギー・ポップ(Iggy Pop)です。
「ジョジョの奇妙な冒険」に出てくる超イカした犬イギーは、イギー・ポップが名前の由来です。
イギーのスタンドは「愚者(ザ・フール)」でしたね。
確かにストゥージズの頃のイギーは、まさに愚者という感じでした。
ただイギーポップは少なくとも高校時代までは、品行方正な少年のようにふるまっていました。
彼は比較的裕福な家庭で育ち、両親の愛情を受けて育ちました。
高校時代にはディベートチームに所属していて「政府による全国民の医療費負担を実現するために」というテーマで、ディベート大会の1位を獲得しています。
ロックミュージシャンの中には、子供時代の悲惨な環境や貧困に苦しんだ経験をバネしているケースもありますが、イギー・ポップにはその種のエピソードはありません。
当時の写真を載せておきましょう。
ちなみに1993年の頃のイギーポップはこんな感じです。
落差が激しすぎるでしょうか。
実際イギーはこのバンドのリードボーカルになるまでは、パーティ用のバンドで演奏することによって女の子にもてたり、注目を浴びることで満足していました。
メンバーが送っていた狂乱の日々
イギー・ポップは後年、ストゥージズ時代をニルヴァーナと比較して次のように答えています。
服装もそうだけど、不敵な佇まいが似てると思う。
アシュトン兄弟っていう、常に狂気と隣り合わせだったミュージシャンを擁していたっていう点も共通してる。
2人が常軌を逸した存在だってことを理解して初めて、俺はバンドに貢献できるようになったんだ。ストゥージズの音楽はやつらが演奏しないと何の意味もないんだよ。
多くのミュージシャンと同じように、俺だって狂気の世界を垣間見ることはあるけど、あの2人は別次元だった。
ストゥージズ時代のイギーは、常軌を逸したパフォーマンスで有名でした。
そのイギーが、別次元の狂気と言っているのが、ギターで兄のロン・アシュトン(Ron Asheton)と、ドラムで弟のスコット・アシュトン(Scott Asheton)です。
この当時のイギーは高校時代とは打って変わって、すっかりクレイジーな男になっていましたが、アシュトン兄弟はイギーに輪をかけてヤバい男たちでした。
『ガチでキマった状態でライブしているようじゃダメだ』って、俺が言わないといけなかった。
イギーは割れたガラスの破片の上、血だらけでのたうち回ってドン引きされてた男ですが、そのイギーがまるで穏健派みたいになっています。
とはいっても当時のイギーもかなりひどい有様でしたので、リーダーとして責任をもってメンバーにマリファナを与えては、一緒にハイになっていたりしました。
バンド名の由来もドラッグをやりすぎたある日、ロン・アシュトンが、自嘲の意味を込めて名付けたそうです。
The Stoogesの「Stooge」とは「ぼけ役」とか「相手の言いなりになる人」という意味です。
要するに俺たちはクスリのいいなりになっている、とんだお笑い草だという感じだと想像されます。
しかし彼らはただのジャンキーではありませんでした。
今回はイギーに火を点けて、その狂気を加速させたアシュトン兄弟について書きたいと思います。
それはライフスタイルだけでなく音楽的にも、この兄弟の存在がとてつもなく大きいと思うからです。
ロン・アシュトンとスコット・アシュトンの演奏について
イギー・ポップが元々ドラムをやっていたのは有名な話です。
イギーがスコット・アシュトンにドラムの叩き方を教えたのだそうです。
スコット・アシュトンのドラムは、テクニック的には決して上手とはいえないかもしれませんが、バンドを強烈にグルーヴさせることができました。
今回ご紹介したどちらの曲を聞いても、リズムがかっこいいと思わないでしょうか。
確かにイギーのボーカルもクールですが、歌が始まる前のドラム、ベース、ギターの時点でもう最高です。
リズムが走らなくても野性味のあるグルーヴをキープできたのは、スコットの功績です。
世の中にはワイルドなサウンドを求めるあまり、ファスト&ラウドに頼りすぎているバンドが数多くあります。
ストゥージズはその点、ミディアム・テンポの曲でもワイルドさを失いません。
それを支えているのが、安易に走らないスコットの行間のあるドラムだと思います。
ロン・アシュトンはもっと評価される機会が多い人です。
この人のリフメイカーとしての才能は多くガレージ系の人たちが影響を公言しています。
この人の最も有名な演奏はこの曲かもしれません。
The Stooges「I Wanna be Your Dog」
キース・リチャーズ(Keith Richards)とかジミー・ペイジ(Jimmy Page)などのような、希代のリフメイカーと呼ばれる人の演奏は、いつ聞いても上手いなと思います。
ロン・アシュトンも負けていないリフメイカーですが、この人の場合は決して上手いとは思いません。
ロン・アシュトンのリフはアイデアとか技術とかではなく、もっと直感的でシンプルに気分を高揚させる種類のものです。
ロック的な身体能力に優れているとしか言いようがありません。
そしてこの人のギターはやはり、スコット・アシュトンのドラムとの相性が良すぎます。
リフというのは、リズムを刻むギターです。ドラムやベースと共にバンドのグルーヴ感を出すという役割です。
このバンドは2人が兄弟だからということだけでは説明できないぐらい相性が良すぎて、他の人が彼らのグルーヴを再現するのは、絶望的に無理な域に達しています。
この2人がつくりだす走りすぎない灼熱のグルーヴに、時には勢いで突っ走ってしまうイギーとの相性が、このバンドの魔法のトライアングルになっています。
この曲のどこがすばらしいのか
さて曲を聞いていきましょう。
「1969」のイントロは、まず強烈なワウで始まっています。
この曲はリズムをとってみると分かりますが、それほど早いリズムを刻んでいません。
しかしそれを上回るスピード感のようなものがあります。
彼らのサウンドには、ミディアムテンポの曲でもスピード感があるという特徴があります。
ハンドクラッピンみたいな音が、とても効果的に入っているせいかもしれません。
スコットのドラムを先程行間があると表現しましたが、その行間に打ち込む感じのこのハンドクラッピンが、とてもかっこいいです。
曲の中盤あたりからのサイケデリックなギターソロは昔は大好きでしたが、今では少し辛いものがあります。
基本的にリズムのカッコよさを聞く曲かなと思います。
もう1曲の「ノー・ファン」も基本的に同じ傾向の曲です。
どちらの動画でもイギー・ポップが訳の分からないパフォーマンスを繰り広げています。
このアルバムからは「1969」と「アイ・ワナ・ビー・ユア・ドッグ」がシングルカットされて、この「ノー・ファン」は、意外にもシングルカットされていません。
「1969」という曲名かわ分かる通り、このアルバムは1969年に発売されています。
このアルバムのプロデュースはヴェルヴェット・アンダーグラウンド(The Velvet Underground)のジョン・ケイル(John Cale)です。
ラフなところを殺さず、こじんまりとまとめなかったのは良い仕事だと思いますが、欲を言えばもう少し曲を短めにしても良かったかなと思わないでもありません。
このアルバムの後
ストゥージズはこのオリジナル体制でもう1枚「ファン・ハウス(Fun House)」を発表して、活動休止状態になってしまいます。
ただイギー・ポップはこの時期のオリジナルのストゥージズに強いこだわりがあったらしく、再びアシュトン兄弟とバンドをやりたかったようです。
後年オリジナル編成で再結成しますが、その後ロン・アシュトンとスコット・アシュトンが相次いで亡くします。
スコット・アシュトンを失った時、イギーは以下のようなコメントを残しています。
「スコットの話に戻るけど、スコットはロンと一緒に実家の地下室で、なけなしの機材とそこそこの夢をもって活動を始めたんだよ。ある意味、二人はまた一緒にそこに戻ったんだね」
確かに羽目を外しすぎたハイテンションの飲み会のようなバンドだったかもしれませんが、この曲の当時はきっと楽しかったのでしょうね。
めちゃくちゃな男たちにしかつくり出せない熱狂のグルーヴを、ぜひご堪能ください。
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