「独創的なリズムセクションとイーノの魔法で幻惑されてしまいます!」
今回はトーキング・ヘッズ「グッド・シング」「警告」(Album『モア・ソングス』)をご紹介します。
╂ 本日のおすすめ!(Today’s Selection) ╂
■アーティスト名:Talking Heads
■アーティスト名カナ:トーキング・ヘッズ
■曲名:The Good Thing、Warning Sign
■曲名邦題:グッド・シング、警告
■アルバム名:More Songs About Buildings & Food
■アルバム名邦題:モア・ソングス
■動画リンク:「The Good Thing」「Warning Sign」
╂ 名曲レビューでは四つ星半以上のとびっきりの名曲だけをおすすめしています!╂
トーキング・ヘッズ「グッド・シング」「警告」(アルバム:モア・ソングス)ディスクレビュー
こんにちは。おとましぐらです。(プロフィールページへ)
トーキング・ヘッズはロックバンドというより、ホワイトファンクバンドとでも言った方がしっくりきます。
それはリズムに聞きどころが多いせいかもしれません。
普通のエイトビートが似合うイメージがありません。
では16ビートかというと、確かにそうかもしれませんが、譜割りを飛び越えた自由さが魅力です。
前作でもその片鱗を見せていましたが、このバンドのリズム偏重ともいえる部分は、このアルバムから本格的にスタートしたと思います。
後の「リメイン・イン・ライト(Remain in Light)」は世紀の名盤と言われていますが、私の感覚ではこのアルバムの段階で既に大化けしています。
私は曲の出来はこちらの方が粒が揃っていると思います。
このアルバムはブライアン・イーノ(Brian Eno)がプロデュースしています。
改めてプロデュースの重要性を思い知らされる作品です。
イーノが今作でクローズアップしたのはリズムです。
このアルバムは演奏、特にリズムが楽曲を凌駕しようとする、その瞬間を聞くアルバムです。
彼らの魅力はたくさんありますが、今回はベースとドラムに焦点を当てたいと思います。
この曲のどこがすばらしいのか
さて曲を聞いていきましょう。まず「グッド・シング」は肩の力が抜けたキュートなポップソングです。
デヴィッド・バーン(David Byrne)のボーカルが飄飄とした持ち味を発揮しています。
おそらくギターもデヴィッド・バーンが弾いていると思いますが、特にギターとボーカルがユニゾンで歌うところが最高です。
そしてギターがテケテケテケと、まるで人をおちょくるように鳴るところもいいですね。
サビはコーラスが入りますが、普通のロックバンドのように高揚感や一体感を得る為のコーラスの入れ方ではありません。
分かりやすいサビではありませんが、それはこの曲だけでなくこのアルバム全体にも言えます。
デヴィッド・バーンのシャイな性格や知性が、分かりやすいサビを入れることを拒否しているのかもしれません。
演奏ではやはりベースがすばらしいです。
2:16からのベースラインはもうこの時点で既に最高と言いたいところですが、2:31からはそこから更に空を飛ぶようなすばらしい演奏へと飛翔しています。
ここはこの曲の最大の聞きどころといってもいいところです。
今回リズムの2人の情報を調べてはじめて知りましたが、ベースのティナ・ウェイマス(Tina Weymouth)は実は美形として注目されるような人だったのですね。
以前スティクス(Styx))のトミー・ショウ(Tommy Shaw)の写真をご紹介した時も一部で好評だったようですから、今回もティナの写真を掲載しておきましょう。
意外にも高校ではチアリーダーをしていたそうですが、1978年のこの写真ではかっこいい女性といった感じです。
しかし本当のすごいのはやはり演奏です。
ちなみに元々はフォークギターを弾いていたそうです。
ベースを始めたのはおそらく1974年後半か1975年ぐらいだと思われますが、この時点で3~4年ぐらいでしょうか。
テクニックというよりセンスが持ち味の人とはいえ、この時点でもう存在感が半端ありません。
現在日本のバンドでも女性ベーシストが活躍していますが、ティナはその元祖にして頂点ともいえる実力の持ち主です。
男ばかりのバンドでベースを弾く女性にとって、きっと良い目標になる人ではないでしょうか。
次の「警告」もリズムがすばらしいです。
まずクリス・フランツ(Chris Frantz)のドラムが、ダブみたいな音響処理をされています。これがとてもかっこいいです。
クリスのドラムはテクニック的にすごいわけではなく、妻であるティナのプレイほど突出していないように思えます。
広く浅く、しかし確実にバンドにおける影響力を発揮するタイプではないでしょうか。
私はこの人のパーカッションのセンスもすばらしいと思います。
このアルバム以降にバンドがエスノ路線になるのは、この人のパーカッションの入れ方がヒントになったのかもしれません。
ここではイーノの編集技術がさく裂していますが、やはり素材となるドラムの演奏もすばらしいと思います。
そしてこちらの曲でもティナのベースが冴えまくっています。なんというクールで骨太なベースラインなんでしょう。
淡々と演奏しているようですが、どう猛なグルーヴを秘めています。
この曲の前半は演奏が長めで、歌が始まるのは1:10からですが、このイントロが私が考えるこのアルバム全体の一番聞きどころだと思います。
この2人だけでなく、キーボードと時にはギターもリズムセクションとして機能していることが、トーキング・ヘッズをここまでの位置に高めていると思います。
アルバムについて
今回このアルバムからは2曲だけご紹介しましたが、はっきり言ってどの曲もご紹介した曲とそう変わらないレベルです。
1曲目の「天使をありがとう(Thank You for Sending Me an Angel)」は重心が低いのに跳ねるリズムがすばらしいです。
前作の「プルド・アップ(Pulled Up)」の続編ともいえるホワイトファンク「ファウンド・ア・ジョブ(Found a Job)」もなかなかです。
他にも摩訶不思議な「ステイ・ハングリー(Stay Hungry)」など個性派の曲ばかりです。
そして忘れてはいけないのはアル・グリーンの曲をカバーしてヒットした「テイク・ミー・トゥ・ザ・リヴァー(Take Me to the River)」です。
この曲のヒットで一躍バンドは認知度を高めました。
イーノってディーヴォ(Devo)でローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)の「サティスファクション(Satisfaction」)をカバーさせたように、あえて有名な曲を取り上げて強引な解釈をするのが好きなんですね。
バンドの良さを引き出し、進むべき路線を示し、ヒット曲まで盛り込んでしまう。
バンドのメンバーはプロデューサーのブライアン・イーノに足を向けて眠れないはずです。
さて今回ご紹介した曲は、パソコンやスマートフォンに内臓しているスピーカーではいまひとつリズムの音が聞こえないので、できたらヘッドホンで聞いて頂いた方がいいかもしれません。
そうしたらこのバンドのクリエイティビティの核がリズムにあることを、ご理解いただけるのではないかと思います。
引き続きこのアルバムのAmazonレビューを読んでみたい方や、ご購入をお考えの方は、下のリンクからお進みください。